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その仕事の話を受けたのは、ズィオがマリオット郊外の邸宅で、別の殺し屋とともに金持ちの夫婦を縛り上げ、問い詰めていた時だった。
広い屋敷のリビングで、両手足を縛られた夫婦をソファに座らせたズィオは、ピストルの銃口を二人に向けたまま口を開いた。
「お前もバカじゃねぇんだから、俺らに嘘付くとどうなるかぐらい想像出来るだろ」
出来るだけ優しく言ったつもりだったが、男の方は目で見てもわかるほど青ざめ、女の方は嗚咽混じりの声を上げていた。
「お前らがうちを通さねぇで宝石やら貴金属やら卸してんのはとっくにわかってんだ。まぁそんだけなら、多少は目を瞑ってやるつもりだったんだが、グリシャムに納めてるってのは頂けねぇな」
ズィオは敵対関係にあるマフィアの名前をだしながら、相手の表情を伺った。これはまだ疑惑に過ぎなかったから、揺さぶりのつもりだった。
「仕方なかったんだ、こっちの地域まで商売を広げるには、どうしたってあっちにもいい顔をする必要があったんだよ」
怒りとも嘆きともつかない声で、男の方がそう言った。
「そうかい、やっぱり繋がってたんだな」
そうかそうかと満足そうに笑うズィオを見て、男は自分の不用意さに気付き、一層顔を蒼くした。
「おい、俺がこいつら見とくから、ちょっと家の中探してこいや。裏帳簿なり、グリシャムとの取引の記録になるようなもんなら何でも持ってこい」
ズィオは一緒に連れてきた部下にそう命じた。部下のエージェントは何も言わずにリビングを出ていった。
お目当てのモノが見つかったら、懇意にしている警察関係者に垂れ込んでグリシャム潰しの手柄を上げさせてやってもいいが、まずはカプランでグリシャムとの取引の流れを精査する必要がある。
このこすい宝石商との取引以外にも、グリシャムの金の流れや繋がりについて、何かわかることがあれば御の字だ。
(だがなぁ……)
運が良ければ何か出てくるかも知れないが、ズィオはあまり期待していなかった。簡単に見つかるような場所に置いている筈など無い。
さっき男の方が口を滑らせてくれたお陰で、グリシャムとこの宝石商との間に繋がりがあるのはわかった。強引に口を割らせてもいいが……。
(つまんねえことに時間は掛けたくないな。いざとなれば、あれを使うか)
ズィオはジャケットの胸ポケットにしまった愛用の道具に手を触れた。
その時だった。ズィオのパンツのポケットに入れていた携帯電話が、二度振るえた。メールが届いた合図だった。
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