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始まりは
その日、ブリターア帝国には隣国のフランヌ公国から使節団が訪れていた。彼らはブリターア現帝王の即位十年を祝う祝賀行事に参加するため、豪勢な船団を仕立ててやってきたのだ。
そして、謁見の間で使節団と帝王の会見は行われた。
ヒルリアは当然、兄王に一番近い玉座に座っていた。
フランヌ公国。我が国と彼の国の間には海があり、攻めるのは難しい。そのために兄上は侵攻ではなく和平を選んでいる。
まあ、使節団はお祭り騒ぎに参加しにきたのだ。せいぜいゆっくりもてなして、我が国の勢いを見てもらおう。
ヒルリアがそう考えた時だった。
吹き鳴らされたラッパの音と共に、使節団が謁見の間に入ってくる。三十人の使節を引き連れ歩いてきたのは。
「ノビリス=デ=オレアン公子が、ブリターア帝王にご挨拶申し上げます。御身の上にソルとルナのご加護が在らんことを」
まだ、若い公子だった。おそらく、十五、六歳だろう。だが、ノビリスと名乗った公子は堂々と顔を上げ、帝王に挨拶した。
けれど『押せば、軽く吹き飛びそうだよな』帝王がその公子に持った感想はその程度だった。だから、帝王はニヤリと笑って返事を返す。
「我が帝国まで遥々よくきた、公子。歓迎しよう!!」
友好国というよりは属国に対する礼儀のような無礼さだ。しかし、公子は微笑みを浮かべ。
「歓迎のお言葉ありがとうございます。陛下のおっしゃるように、帝国が我が使節団を暖かく迎えていただけると確信しています」
つまり、公国が不満を持てばそれは帝国の失策だとわかっているな? そんな意味の返事だった。
この公子は外交の場に立つのはこれが初めてだったはずだ。だが、臆していない。帝王は少しだけ相手に対する評価を変えた。
「もちろんだとも! そうだ、オレアン公子。我が妹を紹介しよう! 滞在中は妹が公子の相手をする」
紹介されて、ヒルリアはノビリスを見た。
ノビリスもヒルリアを見た。
二人の視線と視線がぶつかり合った時、ヒルリアは雷に撃たれたような衝撃を受けた。
公子は琥珀色の瞳をしていた。その瞳は穏やかな波を湛え、太陽のように輝いていた。
ふと、その輝きが優しいものになる。ゆっくりと、笑みが浮かぶ。
「初めまして、ヒルリア王女。英雄姫にお会いできるのを楽しみにしていました」
……。ヒルリアは数秒返事ができなかった。何を言われたのか、その言葉には何の意味がったのか、検討する事も忘れてただ少年公子の顔を眺めていた。
眺めれば眺めるほど、その顔が美しいと認めざるをおえなかった。
「ヒルリア?」
兄王に不審そうに声をかけられて、ヒルリアはやっと我に帰った。
「あ……、こちらこそ、公子殿下にお会いできて光栄だ」
だが、いつもより勢いがないその声が、いささか震えていたのにその場にいた全ての人が気付いた。
ノビアスはさらににっこり笑った。
「はい……、#$%&@@」
何か言われているのに、何を言われているのかわからない、ただ公子の声は小鳥の囀りのように美しく、ヒルリアにその声をずっと聴いていたいと思わせた。
その後、謁見の間がで何がおこなわれたか、ヒルリアは全く記憶になかった。ただずっと公子の声にうっとりし、顔に振る舞いに見惚れていただけだった。
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