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あと九回・そして、パーティー
祝賀行事中には連日パーティーが開かれる。その最初の宴が始まった。
「ヒルリア王女、ご入場!!」
ヒルリアはバルコニーから続く螺旋階段を降りながら、ノビリスの姿を探した。いや探すまでもなく、公子は一番目立つ所にいた。
最友好国の大使だから当然か……。
そう思いながらヒルリアが階段を降りると、公子が近づいて来た。ヒルリアは一瞬視線を影に向けた。控えていた侍女が花を持って近づいてくるのを確認し、公子に微笑みかけた。
ノビリスが、パッと笑い返してくる。
微笑みかけなければよかったと、その時確かにヒルリアは後悔した。だが、その笑いも必要なものだったのだと自分に言い聞かせる。のだが……。
「姫様。今日は一段と光り輝いておられますね」
キラキラした瞳で、ノビリスはヒルリアを見上げてくる。
「このドレスには宝石が沢山縫い付けてあるからな。そのせいだろう」
確かにヒルリアの着るドレスは重かった。
「そうでしょうか? 私には姫様の内から発せられる光のように見えます」
だから! その言葉はなんなのだっ!!
本気でイラッとしながら、ヒルリアは侍女に合図を送った。すっと、薔薇が差し出される。
「公子、よかったら今夜はこの薔薇をつけて楽しまれて欲しい」
そう言って、ヒルリアは二本の白薔薇を公子の髪に飾った。公国では花を髪に飾るのは女性のみと知って。だが、ノビリスは笑い。
「姫様のお心遣いに感謝します。ですが私より、姫様を飾った方がこの白薔薇も喜ぶでしょう」
片方の薔薇を取ると、背伸びをしてその薔薇をヒルリアの髪に飾り、そのまま手を差し出してくる。
「姫様。よろしければ私とダンスを踊っていただけますか?」
全然全く欠片ほどもダメージを受けていないその仕草に、ヒルリアは攻撃が効いていないのかと訝しんだ。
私は今、公子を令嬢扱いしたんだぞ? その裏の意味に気づいていない??
というか、私は公子と踊らなくてはいけないのか? ダンスなんてこの十年男性ステップしか踊ってないのに? 踊るとなったら、手と手を取り合って。手と手を取り合って?? だめだ!
そんなの心臓が保たない!!
「おお。ヒルリア。公子殿下と話が弾んでおるようだな!!」
ヒルリアがどうやってその場から逃げようかと思案している時、救いの神が現れた。
「兄上! そうだ、兄上! 私とファーストダンスを踊っていただけますよね?」
助けてくれ! その目配せが伝わったのか、帝王はニヤッと笑って。
「おお、妹よ! わしに令嬢達の嫉妬光線に焦がされろと? まあ……たまにはお前と踊るのも楽しかろう。そうだ、わしは女性ステップで踊るべきかな?」
「どちらでも構いません! ほら! 行きましょう!!」
ノビリスを置いて、ヒルリアは兄をホールの真ん中に引っ張っていった。音楽が始まる。
「お前、それほど公子と踊りたくなかったのか?」
「そんなのどうでもいいでしょう?」
「しかし……なあ」
「しかし?」
「お前達、同じ花飾りをしてるではないか。パーティでそれは……婚約者の証。だろう?」
その瞬間、ヒルリアは思いっきり兄の足を踏んでしまった。兄の言葉にバクバクする心臓を宥めながら視線を逸らす。何事もなかったようにダンスは続き、ヒルリアの視界にノビリスの姿が映る。少年公子は同い年ぐらいの令嬢と躍っていた。
「あれは、ゲオルグ公爵家のローゼ嬢だな」
兄がボソリと呟いた。
「公子とは従兄妹同士か」
お似合いだな。ヒルリアの心の中でそんな声がした。確かに、踊る少年少女は一対の愛らしい磁器の人形のようだった。
そんな事があったにも関わらず。
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