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あと一回・大宴会
「姫様。今日こそは私と躍っていただけますよね?」
公子がそう言ってきたのは、パーティーも終わりに差し掛かってきた頃だった。それまで、ノビリスが突撃してこなかったのに、ヒルリアは落胆していた。
やはり、公子は従妹を選ぶ、選んだのではないかと。これまでの自分の行動からしたらそれが当然だった。
だから、ノビリスがダンスに誘いにきた時、ヒルリアは少しホッとしていた。
「躍っていただけるのなら」
昨日、兄王と話して公子との結婚は可能だと返事はもらっていた。悪くない話だと。
だが、それとその話を自分の口から切り出すのは全く別の話だ。
でも、これが最後の機会なんだ。
勇気を出さないと。だけど、手が震える。
「姫様? ご気分でも悪いのですか」
女性ステップを踊っている公子の顔をヒルリアは見ないようにしていた。繋いでいる手が震えているのがわかるのか、ノビリスは心配そうな顔でヒルリアを見ている。
それに、ヒルリアは気づかなかった。ただ、言葉を口にする。
「公子。結婚相手は決まったのか?」
「は?」
そうと言い返されて、ヒルリアはしまったと思った。なんの前置きもなく、不躾な質問をしてしまったと。そればかり気になっていたからかもしれないが。
だが、ノビリスはくすくすと笑っただけだった。その笑いが気に触り、ヒルリアは思わず顔を上げた。
「やっと僕を見てくれましたね。姫様」
琥珀色の瞳が微笑んでいる。そして……。
「結婚相手ですか? 確かに父上から帝国で花嫁を見つけてこいと言われていますが」
「み、見つかったのか?」
「ええ。アタックしているつもりですが全然気づいてもらえなくって、困っています」
「そ、そうか」
公子がアタックしたという女性はどんな相手なのか? やはり。
「やはり、ゲオルグ令嬢かっ?」
途端、公子の瞳が丸くなる。ヒルリアは思わず堰を切ったように叫んでしまった。
「公子。こんな事を言える立場ではないとわかっている。しかし、この結婚は帝国・公国双方に利を与えられるものだと思う!!」
ノビリスの瞳が更に丸くなるのを、ヒルリアは見てもいなかった。
「だから!」
「だから?」
「だから……他の令嬢ではなく、私を選んで欲しい!」
その声はホールの中に大きく響いた。音楽が止まる。
場が静まる。その中で。
「は、はははは……。ほら、全然気づいていなかった」
ダンスを止め、公子は肩を振るわせている。
「僕のアタックそんなにわかりにくかったですか? 褒めて、色々プレゼントしたいって言ったり……花飾りもちゃんと渡したのに」
「え……?」
ヒルリアは、呆然と立ち尽くしていた。
「これが最後の機会だって思っていたんです。今日のダンスでプロポーズしようと。でも、先を越されちゃったな。……好きですよ。ヒルリア王女。僕のプロポーズ受けてくれますよね?」
ノビリスは跪き、手を差し出す。
呆然と話の成り行きを見ていた観客から、少しずつ拍手が湧き起こる。その中心でヒルリアは、差し出された手に、震える手を重ねた。
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