長い逃亡生活

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逃げる途中で、大きな川が流れていた。 流れを突っ切るようにして泳いで対岸に行かないと…。 私は幼少期は田舎の川で泳いで、女学校は一年間だけ水泳部だった。 川では夏は小学五年生まで毎日泳いでいたし、女学校の水泳部はスパルタだったから、泳ぎは得意だったが、それは水着を着て、一人だったからできたこと。 息子をおんぶしたまま泳ぎ切れるかな…いや、泳ぎ切る! 何が何でも日本に帰るんだ! そう決意を更に固めて、横を見ると……え!?何してるの!? 横にいた女性は遺骨を入れた箱を包んだ布を首から下げていた。 しかも五つ! まさか…それを持って泳ぐの!? 置いていった方がいい! 自分の命があるから遺骨に意味があるのに。 私は息子と鞄を背中におぶって川を泳ぎ始めた。 とにかく私と息子の顔が水面につかないようにして、流れを遮るようにして必死に泳ぐ。 さっきの女性はやはり流されてしまった。 遺骨を置いてくればまだ泳げたと思う。 他にも普通に溺れてしまった人や流されてしまった人…私はそれを見ても息子と生き延びる為に泳いで泳いで、やっと岸に着いた。 私と息子以外にも泳ぎ切った人もいたけど、話す気力は泣いてので、とにかく歩いた。 歩くしかなかった。
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