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私は部屋に帰され、懐柔できず逆に文句まで言って時間がかかると思われたのか、私はそこに呼ばれることはなかった。
ずっとここにいることはできない。
日本に帰るんだから…!
ここまで来て、私は息子がいてよかったと改めて思う。
私一人だったら、とっくに心が折れていたし、そもそもここにはいなかっただろう。
「和寿(カズトシ)、頑張ろうね」
息子を抱っこしながら呟くように言うと、息子は小さく頷き返した。
この子を何としても日本に連れて帰らないと!
私は脱出の機会を窺うことにした。
でも一番悔しかったのは「あんた達は負けたんでしょうが!」って言われたこと!
日本語で言われたよ…。
日本は戦争に負けた…。
国は負けたかもしれないけど、私はあんたらに負けるつもりはないから!
私達は隙を見つけて逃げ出し、夜間に動くことにした。
昼間は見つかってしまうから、たくさん歩くのは夜間で、昼間は見つからないように、茂みや林の中を進んだ。
もう気力だけで歩いていた。
私も息子もかなり痩せて、幽鬼のように見えてもおかしくない。
それでも生き延びて、日本の地面を踏むんだ!
息子に日本を見せるんだ!
私と息子はやっとの思いで、38度線を越えて、韓国に着いたのだった。
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