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父は家にある少ないお米で私達におにぎりを作って持ってきていた。
何と父がおにぎりを自ら作って、羨ましそうに見る幼い弟妹に「これは姉ちゃんに持っていくんだから、お前達は我慢しなさい」と諌めたそうだ。
ただ、普通に考えれば、もう食べられない。
私達は二週間は下船できなかったから。
しかも父はおにぎりの付け合わせに、らっきょうも一緒に包んでいた。
「これ、ニンニク?」
和寿がらっきょうを見て不思議そうに尋ねる。
和寿はらっきょうを見たことがないから、見たことのあるニンニクだと思ったみたい。
「これはね、らっきょうと言うんだよ」
父がにこにこして教えた。
和寿のお祖父ちゃんになった父は、もう軍人ではなくなったけど、私の中では、いつも立派な自慢の父だ。
母はちょっと迷信深くて、古い考えもあるけど、立派な人だと思う。
私は本当の娘ではないけど、二人の娘になってよかった。
父に連れられて福岡の久留米に戻ってきたけど、一番栄えていた場所は瓦礫の山で、鉄筋製の百貨店は焼け残っていたけど、もちろん営業なんてできない。
すっかり様変わりしてしまった町に困惑していると、父が空襲があって、これでもマシになった方だと言う。
私は空襲は知らないけど、たくさんの焼け跡はまだ残っていたことで何となく察した。
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