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ライラが屋敷に来てから、だいたい1週間くらいが経った、と思う。
日の光すら射さない屋敷の中は、時間の感覚すら奪われてしまう。自分の体内時計にしたがって、だいたいこれくらいの日数が経ったに違いないとライラは考えたが、自信はない。
たた、足の怪我は少しずつ回復してきて、左足を着いても痛みは無くなってきた。
その日も、いつも通り用意された食事をとり、ベッドの上でくつろいでいた。この奇妙な屋敷での生活にもそろそろ馴れてきた。そんな時だった。
『はじめまして、ライラ』
どこからか急に男性の声が聞こえてきた。
突然のことに、ライラは辺りを見回しながら、手元に置いていた愛用のナイフに手を伸ばし、身構えた。
「何者なの。なんで私の名前を知っているの?」
声はテレビのモニター越しに聞こえてくるようだ。ライラはナイフを握りしめ、モニターを睨みつける。
『私はこの屋敷の主人です。足の怪我はいかがですか』
屋敷の主人を名乗るその声は、落ち着いた口調でそう答えた。まるで機械の自動音声のような、感情の読み取れない声だった。
「おかげ様で順調よ。だから、なんで私のこと知ってるのよ。ちゃんと質問に答えて」
ライラは語気を強め、そう言い返す。
『あなたのことは調べました。あなたの正体は殺し屋ですね。でも、今は裏切り者として組織から追われています』
屋敷の主人はなぜかライラの正体を把握している。ライラは心臓を掴まれたような感覚になった。ナイフを握る手に力が入る。
そんなことお構いなしに、屋敷の主人は話を続ける。
『その上で、あなたに依頼をしたいのです』
「依頼・・・?」
屋敷の主人の言葉に、ライラは訝し気に眉をひそめる。相手が何を言っていることの意味が理解できず、さすがに動揺を隠せない。
『依頼内容は以下の通りです。ターゲットの人数は1名。殺害方法は自由。決行日は約1か月後の5月10日とさせて頂きます。成功報酬は10億リランです』
「10億リラン!?」
予想もしなかった金額に、ライラは思わず声を上げた。10億リランもあれば、一生遊んで暮らしてもお釣りが出る。よほどの大物か、あるいは相当恨みのある人間を殺したいのだろうか。
「随分出すのね。どんな要人を殺すつもりなの。一体ターゲットは誰?」
そう問い掛けるライラに、屋敷の主人は少し黙ったあと、静かに告げた。
『私を殺してください』
「は?」
相手の意外な答えに、ライラは言われたことの意味が分からなかった。屋敷の主人は自分の言葉がライラに聞こえなかったと思ったのか、再度言いなおした。
『もう一度言います。私を殺してください』
相手の言葉に、なおも戸惑うライラだったが、気を取り直してこう言い返す。
「見えない相手は殺しようがないじゃない。幽霊でも殺せって言うの?姿を見せてから言いなさいよ」
『わかりました。では案内しますので、私の言う場所へ来てください』
屋敷の主人はそう言うと、ある場所へ行くよう促した。
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