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相澤さんはそう言って優しくはにかんだ。僕はジュースの中身が減って軽くなった袋よりも更に心が軽くなった気分になれた。好きな人に微笑まれる。たったこれだけで、こんなに幸せになれるなんて。
「気配りが出来て物腰も柔らかい。加藤くん、さてはかなりモテてるんじゃないんですか?」
「えっ!? いやいやそんな事無いよ! 僕の貴重なモテ期は幼稚園の年長の時で品切れだよ!」
恥ずかしくて要らない事を口走った様な気もするが、動揺を悟られるのは嫌だったので、適当な場所にスマホを構えて写真を撮って誤魔化した。相澤さんは何か言いたげそうだったが、首を強引に横に振って、僕と一緒に写真を撮り始めた。登山を再開してしばらくすると、無言になっていた相澤さんの口がようやく開いた。
「怪しいですね。こんなにモテてる雰囲気なのに」
「その、本当にモテてないからね? それ所かあんまり異性として認識されないタイプだから」
「どういう事ですか?」
「僕、昔から影が薄くてさ。強い言葉も使えないし、喧嘩もした事ないし。だから人から軽んじられやすいというか、別に居ても居なくても正直影響無いというか……。わっ、すごいネガティブになっちゃった。ごめんね」
蓼食う虫も好き好き、ということわざがある。辛い蓼を好んで食べる虫がいる様に人の好みも人それぞれであるという意味なのだが、僕はいわば存在しない蓼の様な奴だった。どんなに変な物を好き好んで食べる虫でも、存在しなければ食べる事は出来ないのだ。
人に嫌われるのが怖い。変な事を言いたくない。そんな後ろ向きな思いばかりだから人と積極的に関わる事が段々怖くなっていった。その場では普通に会話出来ても、家に帰ってベッドに潜ると勝手に一人反省会を開いてしまう。
人に優しくしか出来ないから、当たり障りの無い事しか言えないから、どんどん存在が希薄になっていく。今日、部員が集まらなかったのも、どうせ約束を破っても怒られないと思っているからに違いない。僕に出来るせめてもの抵抗は既読無視くらいの物だから、見事に彼らの予想は当たっているのだが。
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