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歩き続けて八合目まで登ってきた。山頂に辿り着くと幾つかの木製のベンチがあって、そこから街を見下ろす事が出来る。県の夜景スポットの一つとして推薦されている場所だが、生憎今は太陽が真上にある。僕が最後に山頂に辿り着いたのは小学三年生の時なので、当時の記憶と比べて変化があるか楽しみだった。
「もうそろそろ山頂だね。やっぱり早かったなあ」
「写真はどれくらい集まりましたか?」
「四十枚くらいかな。風景だけじゃなくて飛んでた鳥とかも適当に撮ってたから、文化祭で使えるのはあんまり無いかもだけど」
その中の数枚は相澤さんなのだけれど、見せるのは色々と恥ずかしいのでもし見せてと言われたらすぐに消去する準備はしておく。
「私も結構撮れましたよ。意外と虫が多くて助かりました。この写真とか結構好きですね」
画面を見ると岩陰に隠れていた黒い虫がこっちを見ていた。木漏れ日に当たって鈍く光っていて、不思議と綺麗な感じがする。僕は良い写真だねと言って、お返しに途中で撮影した檜の木々を見せた。
「じゃあ後は山頂に行って降りようか。下山するまでが山登りだから、油断しないようにしようね」
ペットボトルの蓋を閉めて休憩時間を終える。そして歩き出そうと足を踏み出すと、相澤さんが僕の袖を引っ張った。後ろを振り返るより先に、首元に何かが入り込んだ。
「うわっ、硬い!?」
「私の嫌いな形の小石を入れました」
「えっ、何で!?」
背中側から落ちていった小石を眺めて、僕は冷静さを取り戻す為に一度息を整えた。そして何故こんな事をしたのかを考える。多分やりたくなったからやったのだと思うし、相澤さんの可愛らしい表情を見ても答えはそれ以外に考えられなかった。
でも返答は僕が予想していた理由とは百八十度違っていた。僕の両耳を生まれて初めて疑いたくなる様な、そんな絶対に有り得ない言葉だった。
「好きな人に悪戯したくなるのは当然でしょう?」
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