蓼食う君が好き好き

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「酷く焦ってたんです。山頂に辿り着いて帰ったら、また何も出来ない私のままなのかなって。だから、あんな強引に迫っちゃいました」 「そっか……! ふーん、ぐふふふふ……」 「笑い方がすごく面白い感じになってますよ!」  山頂で想いを確かめ合った後、僕達は下山を始めた。正直、現実味は未だに薄い。でも繋がっている手から伝わる体温が、僕にしっかりしろと諭している気がして、何とか気を保っていられる。   「ちなみに、いつから僕の事好きだったの?」 「十二年前からです」 「わあ、すごい昔からなんだね嬉しいなあ……。えっ、いや、十二年前!?」  またからかわれているのかと顔を見るが、微笑みながらも真っ直ぐな瞳をしていた。しかし、嘘でないとしたら、僕達はずっと昔からの知り合いだったという事になる。  僕が初めて出会った日はいつかと頭を必死に回転させていると、相澤さんは指に摘んでいた虫を見せてきた。僕達を繋いでくれた恩人ならぬ恩虫が、じっとしてこちらを見つめている。可愛い。 「蓼食う虫も好き好き」 「えっ?」 「加藤くんの唯一のモテ期の時に私も居たんですよ。この言葉はその時に教えてくれた物で、蓼を食べる虫ってどんなのがいるんだろうって、母と図書館に行って調べてみたんです。その時からですよ、私が虫を好きになったのは」  幼稚園の年長だった当時は生徒が多くて、記憶も朧気になっていた。その後の話によると、相澤さんと僕は小学校と中学校が別で、高校の時に偶然再会したらしい。相澤さんも僕の事は忘れていたが、幼稚園を卒業した後も漠然とした誰への物か分からない恋情を抱えていたというのだ。  その想いは高校で再会した僕の顔を見た瞬間に噴き出して、相澤さんはずっとチャンスを伺っていた。でもいきなり好きですと言い出せば拒否されると思って、この数年間でゆっくりと外堀を埋めていったらしい。 「自分が居ても居なくてもなんて、私、加藤くんに影響受けまくりなんですから、二度と言わないで下さいね」  幼稚園の時に難しい(ことわざ)を自慢げに教えていた事はちょっと恥ずかしかったが、そのお陰で相澤さんに影響を与えられたなら、昔の自分に感謝するしかないだろう。  今こうやって想い合えているのは、様々な奇跡が積み重なった結果だ。今日のこの写真撮影兼デートが実現したのも、本当に奇跡みたいな物だった。
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