蓼食う君が好き好き

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「『川で鮭と格闘する予定が入ったので今日は行けなくなりました』。……君は熊か!?」  スマホの画面にはふざけた文言と舌を出して可愛らしく謝っているキャラクターが映っている。僕はそれに既読無視をかまして、今日の為に買ってきた人数分のジュースをゆっくり地面に置いた。  昆虫部と山岳部の合同登山と銘打って開かれた交流会は、当初は十五人が参加する予定だった。というのも文化祭の展示物を部活事に制作する必要があったので、夏休みの間に皆で手伝いあって終わらせようという計画があったのだ。山の風景や多種多様な虫を撮影して、大きな模造紙に貼り付けて展示する算段だった。 「これで十三人目の欠席者ですか」 「僕達以外は全滅だよ……。ちょっと困ったなあ」 「部長同士、まだまだ人望が足りないのかもしれませんね。折角の機会ですし登りながら討論しましょうか。今後の、日本と世界の在り方を」 「人望の話はどこに行っちゃったの!?」  いつもの制服姿とは違って桃色のランニングウェアを身に纏った相澤さんは、僕が置いた複数のジュースの入った袋を持ち上げて、そこからコーラを取り出した。そのまま一気飲みして自動販売機の隣にあったゴミ箱に投げた。入らなかったので頬を膨ませて直に捨てに行った。 「それじゃ行きましょうか」 「えっ、本当に二人きりで……?」 「ええ、ちゃんとカメラもありますし。写真撮影は私達が担当して、他の粗雑な面倒事は部員に任せましょうよ」  何か不都合があるのか、という憮然とした顔つきで僕の瞳を見つめてくる。断る理由も無かったので分かったと頷いて、緊張で乾いていた喉を少しだけ温くなったオレンジジュースで潤した。
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