近くて遠いあと一回

10/10
前へ
/10ページ
次へ
「でも、先輩には彼女いるし、失恋だし、もう、別に見れるだけでいいし……」  考えると、どんどん落ち込んでいってしまうあたしは、最後にため息を吐き出した。 「加納先輩ー、昨日スーパーで見かけたんですけど、一緒にいたのって彼女ですかー?」  畠山くんの質問に、辺りはザワザワとし始める。加納先輩はモテるけど、彼女はいないって噂だったから当たり前の反応だ。  と、言うか、わざわざそんなこと聞かなくていいのに、何聞いてんだ、畠山くん!! 「え? あー、あれ妹」  きょとんとした顔で答えた先輩に、畠山くんがあたしに「だって」と笑う。 「よし、これでフェアだろ? 加納先輩より俺の方が良いって思わせるから、だから、あと一回チャンスちょうだいね、大森」  やけに自信満々で畠山くんはあたしに微笑むと、ようやくやってきたバド部の男子達とさっそく練習を開始する。 「お疲れ歩乃〜っ、愛の特訓はどうなった?」 「は!? 愛!?」  畠山くんは真面目でかっこいいってイメージが、なんだかひっくり返った。彼は色々強引だ。  あたしはこのまま加納先輩を好きでいるんだから。あたしだって、あと一回加納先輩と目があったら告白する!  畠山くんのおかげでやる気に火がついた。  あたしはラケットを取り出して、これまで以上の声を出して部活に取り組む。  そして、これから始まる恋の攻防戦は、きっと、近くて遠いあと一回。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加