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「あと一回、大森さんと部活が始まる前に二人で会えたら、話しかけようって。それが、今日だった。大森さんが一番乗りに来てることはとっくに知ってた。俺は毎回二番目。一番乗りに来る割に、練習始まるまでは何もしないでスマホいじってるのも知ってた」
クスッと笑う畠山くんに、あたしは言い訳もできずに小さくなる。
「なかなか話しかけられなくて。でも、今日で十回目だったんだ。だから、思い切って話しかけた。で、無理矢理でも次に進みたくて、秘密の特訓なんて言って誘った」
一生懸命に説明してくれる畠山くんの顔が、木漏れ日にキラキラ反射しながら、照れていく。
「でも、さっき分かった。大森さんが部活に一番乗りしてた理由」
ハッとして、一瞬だけ畠山くんと目が合うと、あたしはすぐに逸らした。
じりじりと地面が焼けている。日差しが反射して目に沁みる。
「無理にとは言わない。明日、待ってるから」
立ち上がると、畠山くんは走って行ってしまった。
さっきまで聞こえていなかったのに、蝉がすぐ後ろの木で鳴き始めた。青空には飛行機雲が真っ白な線を描く。
畠山くんも、あたしと同じようなことをしていたんだ。それって──
走ってきて落ち着きを取り戻していた胸が、ぎゅうっとまた苦しくなる。
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