近くて遠いあと一回

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 真っ直ぐにジャンプをして、手首を返す。  綺麗な弧を描いたボールは、吸い込まれるみたいにゴールネットを揺らした。  片付けを終えたバスケ部員たちが、みんなで歓声を上げる。 「一久なんでバスケ部じゃねーんだよ」 「え、あー、好きな子と同じ部活に入りたくて。たぶん、あと一回くらいかっこいいとこ見せたら、加納先輩に勝てる気がするんですよね」 「え? 俺?」 「ボールありがとうございました!」  二人のやり取りがあたしにも聞こえてきて、居た堪れなくなる。  逃げ出そうとした瞬間、加納先輩と目が合った。笑いかけてくれるから、体が固まってしまう。だけど、すぐにこちらに向かって走ってくる畠山くんのせいで、先輩が見えなくなる。  右、左と動いてみるけど、畠山くんもあたしに合わせて同じ方向に動くから、どうしたってもう加納先輩と目を合わせることができない。  初めて目が合ったのに。 「よーし、秘密の特訓するぞ、大森!」 「え!? し、しないよそんなの」 「今の見たでしょ? 俺、元々バスケやってたの。でも、高校から大森と仲良くなるためにバドに切り替えたんだよ。責任とって俺の特訓に付き合ってね」 「なっ、なんであたしが責任取んなきゃならないの?」 「俺と仲良くなると、自然に加納先輩とも話せたりするよ〜?」  ニヤリと笑う畠山くんに、あたしは言葉が出てこない。そんなおいしい話にのらないわけがない。
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