近くて遠いあと一回

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「……あと一回、あと一回」  小さく呟きながら、あたしはバドミントンのラケットを胸の前にギュッと抱えて体育館の入り口をゆっくり目指す。賑やかな話し声が聞こえてきて、全身が心臓になったみたいにドキドキしていく。  夏休みの部活動は交代制でほぼ毎日。  時間は午前と午後に分けられていて、第一体育館はバト部とバスケ部が交代で使用している。今日は午前中がバスケ部で、午後からがバド部。  練習を終えて体育館から出てくるバスケ部男子の集団に、一際オーラを纏う加納(かのう)先輩とすれ違う。話に夢中で、あたしの存在なんてきっと見えていない。すれ違うだけで十分だ。  背中に笑い声を聞きながら、今日もバドミントン部一番乗りで体育館の中に入った。  練習開始までまだ時間があるし、向こうの端の方で座って待っていよう。  そう思って歩き出そうとした瞬間、後ろから駆けてくる足音が聞こえてきて、振り返った。 「また大森(おおもり)に負けたー!」  息をあげながら体育館に響くくらい大きな声で悔しがっているのは、ガックリと肩を落とした同級生の畠山(はたやま)一久(かずひさ)くん。 「明日は負けねーからな!」  ラケットをこちらに向けて、宣戦布告をして来る。  いや、あたし、早く来る戦いは別にしていないし、する気もないのだけれど……
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