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3.死神と闇
「……あんたの思っているとおり、奥さんが原因だ」
与一が知る死神の話には続きがあった。
人の寿命とは蝋燭のようなもので、一生が終わればその火が消える。伸長はない。もともとの話は父親を助けようとした息子が布団をひっくり返し、息子の分の寿命が父親に写って死んでしまうのだ。
「私を助けようとして、政子はこんなふうになってしまったのでしょうか」
「そうだが……奥さんの事情はちょっと複雑でな。奥さんはいろんな人間に少しずつ継ぎ足し継ぎ足ししちまった。それで死ぬはずだった色んな死神が奥さんの魂は自分のだって争ってるのさ。それで今、奥さんは死んでるような、死んでないような奇妙な状態になっている」
半死半生。まさにそれが、与一の診る政子の状態だ。
「なんとか、なんとかならないでしょうか。もとは私が死ぬ予定だったのでしょう? その分でなんとか!」
闇は静かに揺らめいた。
「もう、無理だな。奥さんの魂を受け取る死神が決まった。俺はそれまで布団がひっくり返らないか、様子を見に来ただけだよ」
闇が静かにそう呟けば、急に部屋の温度が下がった。そうして政子の喉元へ当てた与一の指先は、何の脈動も感じられなかった。
「端喰様! 今の政子の死神様は端喰様なのでしょう? 怠けたりされないのでしょう? 政子に関係ないじゃありませんか! 死んで閻魔様にいいつけます!」
端喰は怠けない。だからもし与一の担当が端喰だったなら、布団をひっくり返しても死ぬのは与一のはずだ。なのに端喰がここにいるということは、怠けた死神の尻拭いのためだ。
闇から舌打ちが聞こえた。
「……もともとはちゃんと見てなかった死神の不始末だからなぁ。よし、俺が闇に送ろう。あんたに奥さんの蝋燭がわかれば、継ぎ足せるはずだ。あんたが医者なら、奥さんを見分けられるだろう」
そうして端喰はふうと部屋の蝋燭を吹き消し、部屋に闇が満ちた。
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