3.死神と闇

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 そうして再び与一が目を明けたとき、闇の中でぼうと無数の蝋燭が浮かび上がっていた。それが最初の顛末だ。 「話はついたから、奥さんの蝋燭を探せ。ただし選べるのは1回だけだ」  与一はがばりと食い入るように蝋燭を見つめ、どれだどれだと見比べる。  与一の頭の中は混乱で満たされた。蝋燭に長短以外の違いがなく、どれが政子の蝋燭だかわからなかった。その炎の芯をよく見ればその人間の姿が浮かび上がるが、全て見渡しても政子はいない。  与一はこれまで、政子のことなどちっともみていなかったが、後悔するにはもはや、遅かった。  そうして与一は、更なる失敗を悟った。  与一は自らの寿命を政子に返したいと思っていた。けれど与一の蝋燭の継ぎの下には余りなどない。当然だ、もとより与一は死ぬ運命だ。だから継ぎを戻せば、自身はすぐに死ぬ。最早取り返しがつかない。政子と話そうと思っても無理だ。  鎮痛に目を落とし、けれど周辺に同様に継ぎのある蝋燭に気がついた。その炎を覗き込めば、延岡が寝姿が浮かんだ。 「継がれた部分が政子の寿命か……」  延岡の蝋燭は思いの外、長かった。このように継いだからこそ、政子が死にそうになっている。それが酷く癪に思え、与一は無意識に継ぎの上の方をポキリと折り取った。そうすると急に炎の中の延岡が苦しみ始め、慌てて手元の蝋燭から残った蝋燭に火をつける。すると、不思議なことに延岡は再び寝息を立て始めた。  見渡せば、近くに継ぎのある蝋燭がある。炎を除けば政子が布団をひっくり返すよう命じた患者だ。そうして、端喰が言っていた言葉を思いだし、疑問を覚えた。 「医者なら? 家族だからではなく?」  与一は急ぎ継ぎがある蝋燭を探して炎の中を覗き込む。全体を見渡し、配置が住所と重なることに気がついた。  そうして漸く、自分の蝋燭の隣で火の消えた蝋燭の残骸を発見した。与一の口からふうと息が漏れる。死んでしまえば火は消える。炎を探しても仕方がなかったことに気づく。 「これだ、これが政子だ」 「残念だ。じゃあ火を戻すさ」 「待ってくれ。このままだとまたすぐ消えてしまう」  闇から舌打ちが聞こえ、与一が患者の夫々から少しずつ集めた蝋燭を政子の蝋燭に足せば、死神が火をつけた。 「これが奥さんの命だよ」
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