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四ヶ月の剣道部。短い間だったけれど、百年にも匹敵するほどの思い出がある。そのほとんどがサトセンの記憶なのだと初めて気づいて、泣いた。私は泣いた。声を出さずに泣いた。 校門を抜けようとしたとき、私を呼ぶ声を聞いた。 「のなか」 サトセンだった。防具をつけたまま裸足で駆け寄ってくるサトセンの袴が風に揺れている。剣道部員は摺り足を繰り返すことによって足の裏の皮膚が岩石のように硬くなるから、アスファルトの上を裸足で歩くぐらい平気だ。私もその気になれば裸足で外を歩き回れる。 「辞めるなよ!」 サトセンが、私の両肩をつかんだ。がっしりと。 「こんなことで辞めるなよ!」 サトセンは面に覆われた顔を向けて、私を真っ直ぐ見つめている。 「あと一回、頑張ってみろ」 ああ、私はこの人のことが好きだ。 本当に、心の底から。 止めどなく流れてくる涙を抑えきれなくて、私はサトセンにしっかりと抱きついた。 「先輩」 私のほうからキスしてもいいですよね。 目を閉じて唇を突き出した私は、サトセンの顔面を覆う面に顔面をしこたま打ち付けてしまい、眼前に瞬く星を見た。 「痛っ」 了
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