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「のなか」 背後からの声に、身体が反応した。 サトセンだ。二年生の男子主将。段位は二段。初段ですらないただの初心者部員の私がたとえ逆立ちしても練習試合で勝てない相手。もとより男子部員じゃない私は、サトセンと立ち合うようなことはないのだけれど。 「一緒に帰らないか」 拒否する理由も言葉も思いつかなかったから、私はサトセンの後に続いて歩いた。 「おまえ、最近かなり上手くなったよ」 「そうですかねえ」 サトセンの後ろについて、私は金魚のふんのように漂って歩いている。 「積極的に前に出るようになったし、練習中にぼんやりしなくなった」 それは上手くなったのじゃなくて、まともな剣道部員に少しだけ近づいたということなんじゃないだろうか。高校入学と同時に剣道部に入部して四ヶ月。最近は剣道というものの面白さが少しはわかってきたような気がしている。だからそういう意味から言えば、サトセンの言ってることはまったくの見当違いでもない。少なくとも顧問の八木のまるで仙人の寝言みたいな指導よりは、サトセンの言葉のほうがわかりやすいだけまだましに思えるし、実際に私はかなり救われている。
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