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「八木センセイから、剣先に迷いがあると指導されました」 「八木から? 八木なら言いそうだよな。ははは。言うことがまるで山伏とか仙人だからな八木は」 サトセンは夕焼け空を見上げながら、高らかに笑っている。 「まあ、翻訳できる範囲で聞いとけば、それでいいんでないかい」 サトセンとマンツーマンで一緒に帰宅するのは初めてだった。胸の奥の心臓が、なんだかドキドキしている。 学校が僻地にあるものだから、部活の帰りは駅前のバス停まで十五分ほどの距離を歩く必要がある。部活で帰りが遅くならないのなら、学校前のバス停からバスに乗車ができる。だから帰宅部の生徒たちはみんな学校前からのバスに乗って帰る。部活で疲れた私たちは十五分の距離を延々と歩かされる。決して短い距離ではない。大人にとっての長い距離は高校一年生にとってもやはり長い距離だ。最初の頃は納得いかないような気がしたけれど、近頃の私は「まあ世の中ってこんなもんかもね」と諦めがついてきている。 「そういえば……」 サトセンはいつになく饒舌だ。剣道部にぜんぜん関係ないことを、ペラペラペラペラとよくそんなに口が回りますねと突っ込みたくなるほどに喋りまくった。 最初は金魚のふんポジだった私の立ち位置も、いつの間にかサトセンの左隣にしっかりと昇格を果たしてしまっている。 駅前からバスに乗った。車内ではまるで別人のように沈黙するサトセンがなんだかおかしくて、私は自然と顔が綻んだ。
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