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「街によっていかん?」 バスの乗り換えのために繁華街で降りたすぐ先に、ラブホテルの密集する場所がある。 「うーん」 いいかな、と思う私がいた。 サトセンのことは、ぜんぜん嫌いではなかったから。 「はい。寄っていきます」 あてが外れた。サトセンはラブホには見向きもせずに、繁華街をてくてくと歩いてゆき、やがて武家屋敷のような古い一軒家の前に立った。 街中に唐突に出現した時代錯誤な民家。以前から繁華街のど真ん中にあるこの家のことは知っていたけれど、しかしこれはちょっとした驚きだった。サトセンの住まいがここだったなんて、今初めて知ったから。 「上がってけよ。今日は誰もいないんだ。腹減ったから晩飯にしよう」 昨日のカレーライスの残りがあるのだという。遠慮してもどうせ先輩命令ということで食べさせられるのだろうから、気持ちよくいただくことにした。部活の上下関係は絶対だ。 「いただきます」 サトセンの家のカレー、美味しかった。 「どんなルー使ってるんですか」 「うーんとね」 私の家でいつも使ってるルーと、まったく同じものだった。 サトセンの部屋には、要らないモノがあまりなかった。本当に必要なモノが最小限あるだけだ。なんか、いかにも男子っぽくて、ちょっとカッコいい。文庫本やら漫画本やらが溢れ返った私の汚い部屋との偉い違いにカルチャーショックをおぼえたけれど、生まれつき順応性に優れた私はサトセンの部屋のちょっとしたカッコよさに、わずか三秒で慣れてしまった。
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