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私は一緒に立ち合ってくれる女子部員がいないから、相変わらず素振りをしている。 サトセンの部屋から眺めた有明の月が、私を見て笑っている。そんな気がした。 「野中さーん、練習試合してくださる?」 ミキハラだ。私と同じ一年生女子。学年は同じ。でも同じなのは学年だけ。幼稚園の頃から道場に通って腕を研いたミキハラの腕前は本物中の本物。剣道初心者の私なんかの実力とはまさに段違いだ。 どうせ、負けるのはわかっている。それでも逃げるのは癪だから、受けて立つことに決めた。 サトセンが遠くから私を見ている。面に覆われたその姿からは、表情がまるで読み取れない。 ミキハラと対峙して、蹲踞する。 面に覆われたミキハラの顔が、笑っていた。厭な笑いだ。 ミキハラの口が動いた。 「ヤリマン。ばーか。しね」 声には出さずに、ミキハラは確かにそんな罵詈雑言を吐き出した。
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