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「き、気にしてませんからっ! お、俺のも、入ってますし!」
「そうですか……ならよかった」
入江さんはそう言って、固まっている俺の隣でさっさと自分のパンツを干してしまった。
「もし、ご不快にさせたのなら申し訳ありません」
「い、いや、そーゆーんじゃないんです。ただ俺とは違うタイプのだから、履き心地とか気になって、どういう感じかなあって」
ヤバイ、フォローのつもりが変な方向へ掘り下げちまった。
「履き心地が気になるならば、一度使ってみますか?」
なんだって?
「お話しした通り、このパンツは未使用ですから、乾いたら一度履いてみてはいかがですか?」
「いえいえいえ! いいです、大丈夫ですから!」
「私は気にしませんよ? 試して気に入ったならば差し上げます」
「ホント、いーんですって!」
つい声が大きくなってしまい、俺はあわてて口をふさいだ。
「すいません……あの、本当に大丈夫です。前に一度、ためしに履いてみたことあったんですけど、ピッタリしすぎて落ち着かなくって」
「そうだったんですか……」
「はい……」
なんだこの会話。気まずさ半端なくて、いっそ逃げ出したくなる。
「私のパンツをご覧になって、以前ためしたときの感じを思い出してしまったのですね」
「そう、ですね……?」
「そんな落ちこまなくても、この手のパンツが履けなくても、生きていく上で支障はありませんよ」
そらそーだろ。入江さんの真面目な口調に、つい吹き出してしまった。そのままお互い声を上げて笑いあう。
「入江さんでも冗談言うんですね」
「半分本気ですよ」
半分の、主にどの部分が本気なんだろう。でも冗談でも本気でも、入江さんなら構わない。社長命令で半ば無理やりはじまった共同生活なのに、驚くほど寛容で気遣いのできる人だもの。感謝してもしきれない。
(嫌な顔とか、イラついてるところなんて、見たことないもんなあ)
俺ははじめて、入江さんちに住むよう提案してくれた社長に感謝した。そしてそれ以上に、その突然の提案を受け入れてくれた入江さんに。
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