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第一話 初日
「えっ……今なんておっしゃいました?」
某高層ビルの最上階に位置する社長室は、スカイツリーを望める大きな窓を背景に、重厚なデスクとスタイリッシュな応接セットが小綺麗に配置されている。季節は夏だが、空調設備が整っているため、外気の熱など感じさせない居心地のよさだ。
部屋の中央には、社長の高松さんと第一秘書の入江さん、そして営業部所属の俺こと野宮卓が、輪になるようにむかいあって立っていた。
「だーかーらー、そこの入江んちの世話になりゃいいだろって話だよ」
気さくで話しやすいと評判の社長は、ベンチャー気質の四十代半ばで、恐ろしいほどフットワークが軽く、また体力も半端ないバケモノだ。常に多忙な人だから、営業部長だって定例会議以外顔を合わせないと聞くのに、その部下で入社二年目の俺なんかが普通は会えるはずがない人だ。
「ど、どうして、そんなお話になったんですか」
「だって、お前んとこの部長から、一人だけテレワークを渋ってるヤツがいるって聞いたから。なんでも住んでるアパートのインターネットが遅いから、オフィスに通わせてくれって泣きついたそうじゃないか」
たしかに、部長に相談した内容と齟齬はない。俺が現在住んでいる築三十余年の賃貸アパートは、駅近で交通の便がいいのだが、設備の古さが残念ポイントだ。キッチンの給湯器はお湯がなかなか出ないし、年季の入ったエアコンは、設定温度を最低にしてもあまり涼しくならないし、極めつけはインターネットの遅さだ。自費で配線工事したくても、建物の構造上難しいらしく、大がかりな工事は勘弁してほしいと、大家に断られてしまった。
給湯器やエアコンは、まあ何とか我慢できるが、ネットが遅いとリモートで仕事をするのは不可能だ。最近会社の方針で、営業は原則テレワークを義務づけられたが、特別申請をして出社の許可をもらえないかと、昨日部長に相談したばかりだ。
(それが、どうして社長室に呼び出されることになったんだ……そんなにむちゃな申請してるか俺?)
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