日常隙間のミステリアス

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 「あと1回、あと1回だけ!」  思い返せばいつも必死で(おが)み倒して1回の猶予(ゆうよ)をもらっていた。ひどい時は3回くらい引き延ばすことだってあった。でも……それが通用しないことがあるって今更気付いた。というより、周りが甘かっただけで「あと一回」は一回しかチャンスがないという言葉なのに。それでも(くせ)になっている言葉を口にしてしまう。  「お前は日本語を知らないのか? あと1回と言って得たチャンスは1回だけだ。失敗したら終わり。そうだろう?」  正論過ぎて何も言えない。体がガクガク震えだす。なんであんな()けを受けたんだ、オレは。そりゃゲーセンのゲームで軒並(のきな)み勝って気が大きくなっていたのはあるにせよ、見知らぬ人間……いや、絶対に人間じゃありえない、そんな相手の賭けに応じてしまうなんて。うかつ過ぎて涙も出ない。目の前で赤い目が楽しそうに細められた。  「次に入ってくるのは男か女か。お前が当たれば今日使ったゲーセン代を全部なかったことにしてやろう。そして、お前は外した。1度だけチャンスをあげる代わりに、外れたら俺の奴隷(どれい)になれ。と言ったのに望むところと言った。そうだよな」  そう頼めば何度でもできると思っていたんだ。だから、真剣じゃなかった。運次第だとしても覚悟も気合も足りていなかった。ああ、もう終わりだ。伸ばされる男の手を見るのが怖くて目を閉じた。  「虫でしたよ」  「?」  「人間の前に小さな羽虫が入りました」  「貴様(きさま)」  ゲーセンの制服を着た髪を後ろでひとつに(しば)った女性が淡々と指摘して、上機嫌だった男が苛立(いらだ)たしそうに顔を(ゆが)めた。殺気に満ちた視線を向けるも女性は落ち着いている。()()ぐ男を見上げ断言する。  「次に入ってくる人間と指定していなかったので、それ以外が入ったこの賭けは不成立です」
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