レンタルカレシ

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そんな風に言う志歩に、胸の中がざわつき思わず口に出る。 「志歩は、REIの事、何も知らないでしょ。私はREIが優しかったのを知ってる。それが仕事だとしても、私は楽しかったし癒されたもん」 「そ、そうだよね。朱里が変な事されないで帰って来たって事は、REIさんが優しい人だったからだよね」 私と志歩の間に入り、弥生が仲を取り持とうとする。 「確かに、レンタルカレシがどんなものかよく知らずに依頼して、デートして来た事はよくなかったかも知れないけど……知りもしない人の事、悪く言うのは嫌だな…」 そう素直に自分がした事を反省し、思った事を話す。 「……ごめん…」 落ち込んだようにうつむいて謝る志歩。暗くなった空気を一変させるかのように弥生が手を叩いて言う。 「さっ、これでこの話は終わり!」 「でもさ!」 「もうぉ、何?」 弥生が空気を変えようとしたのにも関わらず、志歩が顔を上げて食い下がる。肩を落として、弥生は話を訊く。 「そういうのって大丈夫なの? 朱里のとこ、教育学部でしょ? まだ教師じゃないし、学生だから大丈夫なの?」 「あぁ、不純異性交遊(ふじゅんいせいこうゆう)とか不純異性交際(ふじゅんいせいこうさい)とかってやつ?」 弥生が答えて、一瞬シンと静まる。 「で、でも、私まだ学生だし、REIとしてないもん! しかもREIは21歳だし…成人してるし…」 「いや年齢は大丈夫かも知れないけど、教育関係で、そういう店に出入りしたり利用したりするのって、どうなの? って話」 志歩の言葉に不安を感じ、言葉を失い落ち込む。 「ま、まぁ、たぶんまだ大丈夫だと思うけどなぁ。大学3年だし。4年になったら、教育実習とか採用試験があるんでしょ?」 弥生の問いに、うつむいて頷く。 「その時はさすがにヤバいとは思うけど…」 「もうしないっ! 絶対しないから!」 顔を上げ、弥生に必死に訴える。 「うん。教師になるんでしょ。もうそんなの絶対ダメだよ」 優しく微笑んで、弥生は私の頭を撫でた。 話題を変え、次の休みに出かける話で盛り上がる。 「海かプールどっちにする?」 もうすぐ海開きも始まり、夏本番。7月に入って気温も上がり、毎日暑い日が続く。プールに行くか、海に行くかで迷っていて、2人に訊いてみた。 「プールは人が多いし、接触も多そうじゃない?」 「確かに…」 志歩の意見に弥生が同意する。 「まぁね……じゃ、海にする?」 そう訊くと、2人は頷いた。 その夏、3人で海に行き、志歩と弥生はあちこちでナンパされ、私はレンタルカレシの一件以来『不純』に敏感になり、志歩が持って来た簡易テントの中で大人しくしていた。 それからは大学の講義に集中し、教員養成課程の単位を1つずつ取っていく。矢吹先輩とは顔を合わせる事がないまま、先輩は卒業していき、私は4年生になった。 5月から母校だった高等学校へ向かい、担任だった教師のクラスで2週間教育実習を受け、無事単位を取った。教員養成課程を全て終え、教員免許状を取得し、教員採用試験を受け見事に合格した。 (はぁぁ……真面目に勉強してよかったぁ……必死だったからなぁ…私…) 4月から、教員に採用された『誠立(せいりつ)高等学校』へ英語教師として新任する。現在住んでいるマンションから電車で20分。 高校教師としての新たな生活が始まる。
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