レンタルカレシ

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レンタルカレシ

7月初旬、カラリと晴れた空は雲一つ無く青空が広がり、太陽がジリジリと照りつけていた。 新しく買ったワンピースにヒールが高めのサンダル、ネックレスとピアスをつけ、小さめの鞄を持ってデートの待ち合わせ場所に向かう。 「初めまして、REI(れい)です。今日はよろしく」 「は、初めまして…」 待ち合わせ場所に現れたその男性は、スラリと背が高く端正(たんせい)な顔立ちで、髪はブラウンのショートレイヤー。額は隠れていて少し眉に髪がかかっている。左耳につけたピアスが印象的だった。 「えっと、確認なんだけど、ほんとに俺でいい?」 そう尋ねられ、コクンと頷く。すると男性はフッと微笑んで言う。 「よかった。じゃ、ちょっと待ってね」 ズボンのポケットから携帯を取り出し、どこかに電話をかける。 「お疲れ様です。チェンジなしで。はい、今から…はい、じゃ…」 電話を切って携帯をポケットへしまうと、男性は片手を差し出して言った。 「お待たせ。行こっか」 「うん…」 男性の手を取ると、男性は指を絡ませ恋人繋ぎで手を繋ぎ歩き出した。 1ヶ月前、私、森下(もりした) 朱里(しゅり)は、大学の1年先輩である矢吹(やぶき) 蒼佑(そうすけ)に告白し振られた。 先輩とは大学2年の時に知り合い、友人も含めて食事に行ったりと交流はあった。ずっと憧れていた先輩でいつしか惹かれ始め、3年になってようやく告白したのだが…。 ≪ごめん。森下の気持ちは嬉しいけど、これから忙しくなるし、今は恋愛をしてる時間はないんだ…≫ そう言われ振られたのだ。 森下 朱里、21歳。 大学の教育学部3年生。中学の頃から英語教師になりたくて、高校の英語教師を目指している。2年生の時に友人の紹介で知り合った、矢吹先輩に告白したが振られ、傷心中。 予想はしていた。いずれは自分も同じ立場になるからだ。だけど4年生になった先輩と徐々に交流が減って、そのまま卒業を迎えて会えなくなってしまう前に、気持ちを伝え付き合う事が出来ればと思ったのだ。 私が通う大学は教員養成課程を持つ大学で、小学校、中学校、高等学校の教師を目指す大学だ。大学で教員養成課程を終えて教員免許状を取得し、教員採用試験に合格して採用されれば、教師になれる。 4年生では、教員免許状を取得する為に教育実習の単位を取る必要があり、一般的に幼稚園、小学校で4週間、中学校で3週間、高等学校で2週間の実施期間となっている。中学校と高等学校、両方の免許状を取得する場合は3、4週間必要になっている。 大体は、4年生の5月から6月に行われる事が一般的だが、教育実習を受け入れる側の学校の都合によって9月から11月に行われる事もある。教育実習を受け入れる学校は、主に母校の中学校や高等学校が多い。というのも、学校側は通常業務で忙しい中、実習生を受け入れ業務が増えるというリスクがあるのだ。 大学2年の時に、自身で母校へ教育実習生として受け入れてもらえるかどうか確認しておく必要があり、私も母校の高校へ受け入れてもらえるようになっていて、来年は教育実習にいかなくてはならない。 どうやら矢吹先輩は、教育実習が始まり忙しくなる頃だったようだ。実習期間は大学にも来る事が出来ず、先輩の顔を見る事が出来ない。 矢吹先輩に振られたショックと会えない寂しさから、自宅の郵便受けに入っていた小さなチラシを見て、少し悩んだ末、チラシに書かれていた『レンタルカレシ・ラバーズ』を携帯で検索し、好みのキャスト(彼)を選択して予約をした。
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