3

10/11
前へ
/39ページ
次へ
 校門横の守衛室に名札を返却すると、二人は門扉横の小さな通用口から外に出た。  数歩歩いたところで、ヨシタカは冷たいものを背中に感じた。  ――ゾクッ……  背後に何かの視線を感じる。  振り向くと、教頭の目が門扉の鉄格子の隙間からこちらを見ていたのでギョッとした。 (教頭先生?)  ギョロッとした眼でこっちを凝視している。  その異様な目つきと黒ずんだ顔には生気を感じられない。とても正常な人間のそれじゃない。  ヨシタカが気づいた事で、その顔は横に引っ込んだ。 (今のは?)  気になったヨシタカは、急いで校門に戻った。  通用口から頭を入れて中を覗き込んだが誰もいない。辺りをキョロキョロと捜したが、教頭の姿はどこにもない。 (誰もいない? どこに行った?)  すでに校舎に戻ったとしたら、相当なスピードだ。  出て行ったかと思ったらすぐ戻ってきて、校内を見ているヨシタカに、守衛が驚いて飛び出てきた。 「忘れ物ですか?」 「いえ。あの、驚かせてすみません。今、ここに教頭先生がいませんでしたか?」 「教頭先生? いいえ、私以外、誰もいませんね」  顔の一部だけしか見えなかったが、こちらを覗いていたのは確かに教頭だ。  しかし、守衛がウソを吐くとも思えない。 (……そうなると、あれは生霊か)  生霊なら生気がないのも頷ける。  瑞波まで小走りで戻ってきた。 「急に走り出して、どうしたの? 忘れ物?」 「ああっと、ちょっとした勘違いだった」  守衛が訝しんでいるので、適当に誤魔化してその場を離れることにした。 「何なのよ。ずっと変よ」 「ああ、悪い。さっき教頭先生が校門の向こうからこっちを覗いていたよね?」 「え? そうだった? 気づかなかったけど」  瑞波に見えなかったと言うことは、やはり生きた人間ではない。 「それで校門の向こうを探したんだけも、どこにもいなかった。守衛さんにも、ここには自分以外誰もいなかったと言われた」 「じゃあ、見間違いってことじゃない?」 「いや、絶対に見ていた。だけど、僕以外に見たものがいなかったから、生霊だったんじゃないかと思う」 「い、生霊⁉ そんなものまで見えるの?」  瑞波は、信じられない顔になった。 「教頭先生の生霊が私たちを見ていたって、それって、どうして?」 「僕たちを気にしているってことだよ」 「ますます意味が分からない。確かにいろいろ怒っていたけど、そこまで私たちは何か悪い事をした?」  瑞波は、納得いかない顔をしている。 「私は環奈のことで話し合いに来たんだけど。そんなに嫌がられるってことは、やっぱり、隠したいことがあるってことかもね」  瑞波はますます疑っている。  しかし、ヨシタカは、それだけで生霊を飛ばすとは思えない。 (あの教頭には何かある)  萬豆ばかり疑っていたが、教頭にも疑いの目を向けることになりそうだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加