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 翌日、ヨシタカと瑞波は講義の合間に大学の教室で話した。 「ね、あれから教頭先生の生霊はどう? 現れていない?」  自分には見えない気楽さからか、瑞波が興味深々に聞く。 「いや、あれから現れていない。あの一回だけ」 「それって、こういう事じゃない? あの学校内しか現れないとか」 「生霊は思念だから距離とか関係ない。単に、それほどこっちのことを意識していなかっただけじゃないかな」 「そっかあ。じゃあ、もう私たちの前には現れないのね」 「その方が良いけどね」  瑞波は、「私も見てみたかったなー」と残念がった。 「見ないに越したことはない。あの姿はまるで地獄の住人。見ただけでゾッとする、忘れられない醜くさだった」 「やっぱり見てみたかったなあ」  瑞波は、お化けとか妖怪の類いが好きだった。  ヨシタカは、話を変えた。 「それより、妹さんの容態はどう?」 「ああ、そのことだけど、少しだけ良くなったみたい」 「それは良かった!」 「授業が終わったら病院へ行くんだけど、一緒に来てくれないかな」 「僕が?」 「うん。直接顔を見て、本当のことを聞いて欲しいの」 「本当のこと?」 「あの子、私に本当のことを言っていないように思えるんだ。前の高校を辞めたのだって、私が暮らす東京の高校に行きたかったからって説明だったけど、本当は違うみたいだし」 「どういうこと?」 「多分、前の高校で苛められていたんだと思う。私に心配を掛けまいと、前向きな理由を言っていたけど、実際は違うんじゃないかと」 「その根拠はある?」 「こっちに来てから、地元の子から誰も連絡が来ていないんだもの。今の時代、遠くたってSNSで毎日繋がっていられるのに。環奈が入院していることを知らなくたって、何日も連絡が取れない、SNSの更新が止まっていたりしたら、心配して家族に連絡してくるはず。つまり、環奈には地元に仲の良い友達が一人もいないってことになる。それって変じゃない?」  ヨシタカは、自分について考えてみると、いなくなったところで心配して捜してくれる知り合いはいないだろうと考えた。  大学にも友達はいない。  バイト先はマスターぐらい。急に来なくなっても、バイトが一人飛んだ程度?  今まで友人を作ってこなかったから、誰も心配しなくても自業自得で気にしないし当たり前だが、妹想いの姉としては不自然に感じるのも当然だ。 「今では、環奈が地元の友達を全部切り捨ててこっちに来たって思っている。友達なんかいなかったのよ」 「ああ、だから、こっちでも苛めにあったんじゃないかって、考えていたんだ」  しつこすぎるほどこだわっていた。 「ええ。こっちに来る前に、転校するかどうか何度も話し合って、その時に私が『友達と別れることになるわよ』と言ったら、あの子、『友達なんて幻』って言ったの。その時はよく分からなかったけど、そういう意味だったんだなあって」 (友達なんて幻……)  ヨシタカには、その言葉の意味が悲しくなるほどよく理解できる。  でも、環奈はまだ幸せだ。彼女には、妹想いの姉がいる。両親だって健在。  自分には家族もいない。家族も幻である。 「せっかく新しい環境になって頑張っていこうって思っていたのに、こんなことになっちゃって」 「いや、少なくとも今回のことは苛めじゃない。温乃妃子の呪いが解ければ、きっとクラスメイトとも仲良くやれるよ」  今、ヨシタカに出来ることは、励ますことぐらいしかない。 「そうだといいけど……」 「分かった。僕で良かったら、あとで病院に行ってみよう」 「本当に? 嬉しい。自分を心配してお見舞いにきてくれたって思うだけでも、元気になれると思うの」 「僕でも?」 「そうよ。自信を持ってよ」 「いや、そこまでは……」  何故かヨシタカの方が励まされる。  そこにタイミング悪く尾瀬がやってきた。 「最近、よく二人で話していて仲良いね」 (うわー!)  ヨシタカの顔に困惑の色が現れて、尾瀬は悲しそうな顔になった。 「そんなに嫌?」 「あ、そうじゃなくて、タイミングがあれで……」 「タイミング?」 「うん、まあ……」  ヨシタカがしどろもどろになっていると、瑞波は、「尾瀬君、今日の夕方、時間ある?」と、何故か尾瀬の都合を聞いている。 「あるけど、何?」 「妹のお見舞いに木佛君と行くんだけど、一緒に行く?」 「え?」「え?」  ヨシタカと尾瀬は、同じように驚いた。 「大勢いた方が妹もたくさん元気が貰えると思うんだ。ね、いいでしょ?」 「部外者なのに、病院に行っていいの?」 「いいよ。問題なし」 「じゃあ、一瞬顔を出して帰るよ。それぐらいの滞在でいいなら」 「決まりね! 授業が終わったら正門に三人で集合!」 (そうやって仲間を作るのか……)  ヨシタカは、友達作りの上手な瑞波にとても感心した。  友達が欲しければ、この強引さを見倣うといいかもしれない。
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