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 看護師に、自分たちはこれから白部環奈の病室に行くことを伝えてその場を離れた。これで何かあればそこまで来てくれるだろう。  エレベーターに乗り込んで三人だけになると、尾瀬が訊いた。 「さっきの運び込まれた人って、二人の知り合い?」 「ええ。これから行く妹の高校の先生で、萬豆先生って言うの。昨日、高校でたまたま話していて、その時はとても元気だったのに……」  瑞波は、ショックで元気を失くしている。 「昨日元気で、今日はああなって……。人間って、明日どうなるか分からないもんだよな」  尾瀬までしんみりしている。 「でも、どうしてあんな目に……。私たちが会って話したことで、動揺してハンドル操作を誤ったとか、ボーッとしてしまって車に轢かれたとか……」  瑞波は、自分たちが原因ではないかと思うと同時に、やはり怪しいのではと思った。 「僕たちが原因だと思っているなら、そうじゃない。萬豆先生には怨霊が憑いていた。それが悪さをして事故を引き起こしたんだと思う」 「怨霊⁉ それって、まさか彼女があの人をあんな目に遭わせたの?」 「それもまだハッキリとは……。よく顔が視えなくて」 「ねえ、ヨシタカ」  瑞波がヨシタカの腕を強く掴んだ。 「何?」  瑞波は、神妙な顔で言った。 「もしも……、もしもよ……。あの先生が6年前に生徒殺しの犯人だったとして……」 「えー! こ、殺し⁉ さっきの人が? どういうこと?」  尾瀬が素っ頓狂な声で叫んだので、ヨシタカと瑞波は慌てて口留めした。 「シイー! 騒がないで!」「誰かに聴かれるとまずい」 「あ、ああ……、大声を出して悪い。ここは病院だったしな」 「まだ仮定の話だから」 「仮定?」 「そうよ。だから、もしもって言ったでしょ。それで、ヨシタカにお願いしたいんだけど、あの人を助けてあげてよ」 「僕が?」  さすがにヨシタカは驚いたが、尾瀬も驚いた。 「そんなことも出来るんだ」 「いや、無理。そこはお医者さんに任せようよ。ここは日本有数の名病院。いくらでも名医がいるよ」 「勿論、それ位私にも分かっているわよ。怪我の治療はお医者さんがするけど、ヨシタカには魂の方をサポートして欲しいの」 「魂のサポートなんて、やったことない……」  ヨシタカは乗り気でなかったが、瑞波は必死に説得した。 「あの人が温乃妃子さんを殺した犯人だったとしても、死んで欲しくないし、生きていて欲しい。それに、6年前の真実を解き明かすためには、生きて証言して貰わないとならないでしょ。萬豆先生は、ここで死んではいけない人よ」  ヨシタカは、瑞波の真剣さに折れた。 「分かった。出来るだけのことはしてみる。でも、ここでは無理だな。どこか静かに集中できるところじゃないと」 「丁度いい場所があるわ。あとで案内するね」  チーン、とエレベーターが停まった。  廊下に出ると、瑞波がナースステーション前の病室を指さした。 「あそこ。ナースステーション前の病室。あそこが環奈の病室なの」  ドアの横には、部屋番号と『白部環奈』と書かれていたネームプレートが貼られている。  ナースステーションの看護師に、「白部環奈さんのお姉さんでしたよね」と、声を掛けられた。 「はい。何かありましたか?」 「環奈さんは順調に回復しているので、明日、病室を変更します」 「分かりました。ありがとうございます」  病室に入ると、カーテンで区切られた病床が並んでいて、一番奥に環奈がいた。  環奈は、突然現れた瑞波の顔を見て喜び、見知らぬ訪問者に驚いていた。 「体調はどう?」 「お姉ちゃん。来てくれたんだ。うん。まあまあ」 「無理しないで寝ていていいわよ」 「でも……」  環奈は、初対面のヨシタカと尾瀬を意識している。  霊視で会った気になっていたが、ヨシタカはこれが初対面。そして、尾瀬もだった。 「大学の友人の木佛ヨシタカさんと尾瀬さんよ。環奈のお見舞いに来てくれたの」 「ありがとう」  環奈が照れくさそうにお礼を言った。  前に視た時より元気になっていたので、ヨシタカは安心した。  軽く霊視してみたが、温乃妃子の霊はどこにもいない。 (勝手にどこかへ離れて行ってくれたのかな? その代わり、萬豆に憑りついたんだとしたなら、あっちも祓わないと)  しばらく会話してから、「明日も私は来るわね」と瑞波が言って、三人で病室を出た。  瑞波は、「あそこに小さなテーブルと椅子があるでしょ。そこが丁度いいんじゃないかな。時間を潰している振りで座っていれば、多少時間が過ぎても怪しまれないと思う」と、ナースステーション近くのコーナーに二人を連れて行った。  一つだけ置かれた自動販売機の前に、小さな丸テーブルと椅子が三脚だけ置いてある。  待合スペースというほどの広さもない。狭くて隣に誰かが来る心配もない。  各々ドリンクを買ってテーブルに置くと、休憩している振りをしながらヨシタカは霊視した。
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