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霊視を始めると、ヨシタカは、何故か真っ暗闇の中にいた。
「ここはどこ?」
周囲を見回しても何も見えない。どこまでも闇が続いている。
「もしかして、ここって萬豆先生の精神世界? そこに飛び込んだのか?」
霊視をしようとしただけなのに、とんでもない状況に陥った。
「これじゃ魂のサポートをするどころじゃない。油断していると、こっちまで取り込まれてここから抜け出せなくなってしまう。早く萬豆先生を見つけて戻らないと」
探そうにも暗すぎてどこに向かえばいいのかも分からない。鼻をつままれても分からないっていうやつで、完全に方向を見失っている。
何か打開策はないかと手を動かしながら、そろそろと前に進んだ。
自分がどんな場所に立っているのか、それとも立っていないのかすら分からない。足元も真っ黒だから、穴があっても分からないで落っこちてしまうだろうが、肉体はないので怪我の心配はない。
どのくらい歩いたのかも分からずに進んでいると、どこからか苦しそうなうめき声が聴こえてきた。
「……ウーン……ウーン……」
(あれって、人の声だよなあ。萬豆先生かも)
確かめようと、声の方に近づく。
闇の中に、大きな背中を丸めてのたうちながらもがき苦しんでいる大人の男性の姿が浮かんできた。
「ウー……、ウー……」
腹の中から搾りだすように呻いている。この断末魔の苦しみが、周りの闇世界を作り出しているのだろう。
本人は相当苦しいのだろうが、ここは現実世界ではない。あくまでも萬豆先生の意識の中に過ぎないから、苦しみも自己のイメージが作り出しているもので、自分で自分の首を絞めているようなものだ。
ヨシタカは、普通に話しかけた。
「萬豆先生、萬豆先生」
その男性は、ヨシタカの呼びかけにピタリと息を止めて、ゆっくりとこちらを向いた。萬豆先生だった。
苦しみに顔を歪めてダラダラと脂汗を流し、あの色男が見る影もなくなっている。
「萬豆先生ですね」
「誰だ?」
「昨日高校でお会いした、木佛ヨシタカです」
「あ、ああ、あの……」
ヨシタカを覚えていたようで、軽く頷いた。
「教えてくれ。ここは、どこだ? なぜ、私はここにいる? 君はどうやってここに来た?」
いっぺんに訊かれても答えられない。
「ひとつずつお答えしたいんですが、僕にも分からないことが多くて。気付いたらここにいたもので」
「君も私と同じか。そうかあ。でも、良かった。他の人がいて。もう自分は死んでしまったのかと思っていたよ」
事態の把握が出来ていなかった萬豆は、真っ暗で何も見えない場所で相当恐ろしかったのだろう。知っている顔に出会えたことに安心して、腰が抜けたようにへなへなとへたり込んだ。
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