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 最初はこのまま連れだそうと思っていたが、(待てよ。この状況、使えるんじゃないか?)と、考え直した。 (萬豆先生は相当神経が参っている。この状況を利用して、6年前の真実を聞き出せるかもしれない)  そんなことをヨシタカが考えているとは露知らず、萬豆は、「ああ良かった」と、呑気に喜んでいる。 「君はここがどんな場所なのか知っているんだろ? だって、ここに来られたんだから。帰り道だって知っているんだよな。一緒に私を連れていってくれ。いや、下さい。お願いします」  身動きの取れない真っ暗闇の中で、恐怖を存分に味わった萬豆は、すっかり低姿勢になっていた。 (今なら思い通りに出来そう)  ヨシタカは、まずは精神的揺さぶりをかけようと、わざと小難しい顔をした。 「それは無理ですね」 「え? なんで?」  萬豆は、キョトンとしている。 「ここから出る方法。それはとても難しいんです」 「どういう風に?」 「隠し事のない純粋な魂を持つ者だけが、ここから抜け出すことが出来ます」  萬豆は、顔が強張った。 「隠し事のない純粋な魂?」 「そうです。噓偽りのない人は、こんな場所にこない。この世界は、他ならない、萬豆先生、あなた自身が作り出した精神世界なんです」 「言っていることがよく理解できないんだけど。本当にそんなことがあるのか?」 「先生は、僕がどこからかここにやってきたとおっしゃいましたよね。では、先生ご自身はどうなんですか?」 「それが何の記憶もないんだ。だから困っているんじゃないか。ここに来た道を覚えていたら、まだ何とかなるのに」 「では、最後の記憶はどうなんですか?」 「車を運転していたのは覚えている。それからどうしたっけ? ……ああ! 思い出した! フロントガラスに不気味な女の幽霊が現れて、吃驚してハンドル操作を誤ったんだった! それで、気付いたらここにいた!」 「やはり、そうでしたか」  ヨシタカは、深いため息を吐いた。  その霊に引っ張られて事故は起きた。 「恨みを込めたような恐ろしい顔だった。思い出すだけで身震いする」 「その霊に見覚えは?」 「幽霊に知り合いはいないよ」  萬豆は考える気もない。 「恨まれる心当たりがあるはずです。先生がここにいる理由。それこそが、その霊と関係があることを証明している。その霊は怒っている。なぜなら、先生が原因だから。ここから出るには、隠していた真実を明らかにして、その霊に心から謝罪することです」  ここまで言えば、さすがに良心の呵責に耐えられないだろう。 「私が原因で幽霊が怒っている?」 「そうです。ご自身が一番よく分かっている。先生は嘘を吐いていた」 「私が?」 「隠しているんでしょう? 大事なことを。墓まで持って行くつもりの秘密があなたにはあるんでしょう。打ち明けると心が軽くなりますよ。そうすれば、この闇が晴れるかもしれない」  萬豆の顔が急に赤くなった。 「まさか、君は知っているのか? あのことを」  今度は青くなってブルブル震えている。 「あのことが明るみになったら、私は破滅だ!」  萬豆は、頭を抱えた。
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