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 洗面所でバケツの汚水を流し、タオルを洗っていると、後ろから「富岡先生。ご苦労様」と、(いただき)校長に声を掛けられた。 「いつも温乃(おんの)さんの席を拭いてくれていたんですね。だから綺麗だったんですね」 「見ていらしたんですか? お恥ずかしい」 「いえいえ、素晴らしいことです。温乃さんもきっと喜んでいます」 「元同級生として、汚れを放っとけなくて」 「これからも、是非、お願いします」  富岡は、常々気になっていたことを聞くいい機会だと思った。 「あの、校長先生に聞きたかったことがあるんですが」 「何でしょう?」 「何故、この席を復活させたんですか? 温乃さんが亡くなった後、しばらく追悼で置かれていたこの席ですが、数カ月で前校長は撤去しました。でも、戴校長がそれを復活させたと聞きました」 「それは、温乃さんのことを忘れてはいけないと思っているからです。前校長は、すぐ片付けた方がいいとの意見でしたが、追悼で置くように進言したのは私だったんですよ。でも、結局片付けられていました。だから戻したんです」 「でも、今では学園の怪談みたいになってしまっていますよね」 「それでも、ここに置くことに意味があると思っています」 (何故そこまで固執するんだろう?)  先日、戴校長が教育委員会の職員として6年前にここで対応していたと知った。 (今まで考えたことなかったが、戴校長は、何かの目的があってここの校長になったとか。ハハ、いや、まさか……)  自分で想像しておいて、漫画みたいだなと思った。 「ところで富岡先生、このあと時間ありますか?」 「何でしょうか?」 「萬豆先生の件で話があります」 「萬豆先生なら、交通事故で入院中ですよね?」 「昨日退院されました。これから学校に来る予定で、富岡先生にも同席して欲しいんです」 「私が?」 「そうです」 (自分は萬豆先生の事故と何も関係ないはず。報告なら職員会議でいいのに、わざわざ呼び出されて同席する必要があるのだろうか? でも、戴校長は間違ったことをしない。突然の事故で急な不在となった萬豆先生の穴を自分も埋めている。その件かな?)  勝手に解釈して納得した。 「分かりました。校長室に行けばいいんですね」 「では、お願いします」 「片付けたらすぐに行きます」  戴校長がいなくなると、富岡は、バケツとタオルを掃除用具入れに片付けた。  それから校長室に向かった。  中に入ると、戴校長、足に包帯を巻いて松葉杖をついた萬豆先生、そして、なぜか白部瑞波と木佛ヨシタカがいた。  何の話かさっぱり分からなくなった。
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