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教頭の生霊は、どこにいても萬豆先生を見張っている。
最悪、教頭に口封じされるかもしれないと、萬豆はずっと怯えていた。
そこでヨシタカは、戴校長が不在の間に校長室に結界を張った。
これで教頭の生霊に聞かれることがなくなり、萬豆は安心して打ち明けられる。
「萬豆先生、どうぞお話しください」
「はい……」
萬豆は、とんでもない量の汗を掻いている。それこそが、これから衝撃的な話をする兆だと誰もが思った。
周囲が息を飲んで待っていると、萬豆はソファから立ち上がり、怪我している足を引きずって少し広い場所に移動した。
何をするつもりなのかと注目の中、冷たい床に直に座った。
怪我している足を曲げられずに何度も座り直し、最終的に投げ出して、もう片方の足だけで正座した。これだけで数分掛かった。
見かねて校長が声を掛けた。
「萬豆先生、ソファに座ってください」
「私はここで充分です」
萬豆は、床に額をこすりつけて土下座した。
「申し訳ありませんでした!」
「萬豆先生?」
「6年前の温乃妃子さんの件で、私は嘘を吐きました!」
「まさか……」
「聞き取り調査の時、私は何も知らないと言いましたが、本当は知っていました。あれは殺人でした。自殺じゃありませんでした」
(ついに言った! やっぱりそうだった!)
富岡は、ようやく彼が認めたことでスッキリした。
想像通りで今更驚くようなことじゃない。
戴校長をこっそり見ると、特に驚いていない。まるで知っていたかのような顔をしている。
「今まで何度も訂正する機会はあったのに、ずっと自殺だと言い張ってきました。全部嘘でした。温乃妃子さんにも、ご遺族にも、心から申し訳ないと思っています」
ここまで萬豆は頭を上げていない。ずっと下を向いていて、床が濡れていく。
「萬豆先生、頭を上げてください」
戴校長は、萬豆の顔を上げさせた。青ざめた顔にたくさんの涙が流れている。
「犯人は、萬豆先生だったということですか?」
「それは違います!」
「では、犯人を知っているんですか?」
「はい。私は犯人を知っています」
「それは、誰ですか?」
「……」
萬豆は、植え付けられた恐怖に抗うように首を振り、声を搾り出した。
「……百々目教頭です」
「教頭先生が⁉」
富岡は、萬豆じゃないことに驚いた。
「それって、本当のことですか? 証拠はあるんですか?」
「証拠はありませんが、私は目撃しました」
「どうして今まで黙っていたんですか? 何故、今、打ち明けたんですか?」
富岡は、聞きたいことが沢山あって質問がまとまらない。
「今打ち明けたのは、心境の変化があったからです。事故に遭って生死の境をさまよって痛感しました。真実を隠蔽したまま死んではいけないと。それだけじゃなく、温乃さんの幽霊が目の前に現れたんです。それでハンドル操作を誤ったんです。その時、彼女は私を許していないと感じました。このままではいけないと思い、全て打ち明けることにしました」
幽霊が現れたからという理由は信じがたいが、事故が彼を改心させたのだろうと、戴校長と富岡はなんとなく納得した。
「黙っていたのは本当に申し訳ありません。教頭先生が殺人犯だと指摘する勇気がなかったんです」
「そうでしたか……」
「校長先生、6年間も騙していてすみませんでした」
「よく勇気を持って打ち明けてくれました」
戴校長は、責めるどころか褒めている。
(この校長、凄い人だ)
ヨシタカは、感心した。
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