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 意識を飛ばして、環奈のところに向かう。  KO病院の白い病室で、ベッドに「白部環奈」と書かれたネームプレートを見つけた。 (あの子が白部環奈だな)  ヨシタカは、天井から見下ろすように環奈を観察した。その美しい寝顔は、血の気が失せて雪のように白い。  環奈は、深い眠りについているようで身(じろ)ぎ一つしない。  ベッドの周囲には、心拍数と血圧の計測モニターが置かれていて、環奈の体と繋がっている。ピッピッ、と短く甲高いビープ音が一定のリズムを刻んでいる。  ヨシタカは、室内に強烈な霊の気配を感じた。 (ここには、何か霊がいる……)  探ってみると、環奈の枕元に全身黒ずんだ女性の霊がいるのが視えた。  黒い手で環奈の顔を撫でている。  どんな顔をしているのか黒くてよく見えないが、女性ということは分かった。 (あれは、この世に未練を残した未成仏霊だ。あれだけ黒いということは、相当強い怨みによって、もはや悪霊になっている。白部環奈は、どこかであれを拾ってしまって憑りつかれたんだ)  病気を霊視するまでもなかった。あの霊が憑りついたことで体調を崩しているのなら、取り除けばよい。  ただし、そう簡単に離れてくれるとは限らない。  悪霊化した魂に正論や理屈は届かない。  どうしようかと考えていると、悪霊の首がギギギ……と、少しカクつきながらゆっくり回転しだした。  ヨシタカの気配を察したようで、所在を探っているようだった。 (しまった。こっちに気付いたかも)  ギギギギ……と、回転した首は、人の首の可動域を遥かに越えて真後ろまで届き、さらに半回転した。  だが、上空にいるヨシタカにはまだ気づいていない。  今度は、ギギギ……と頭が上に向きだした。  肩から下は全く動いていないのに、首だけが自由自在に動いている。  その動きがあまりに恐ろしくて隠れようかと思ったが、逃げても解決にならないだろうと思いとどまった。  やがて、90度の角度に曲がった首で悪霊がヨシタカを捉えた。充血した目でヨシタカを見ている。悪霊のそこだけは真っ赤だった。 『ミィ……ツゥ……ケ……タ……』  いろんな霊を視てきたヨシタカでも震撼してしまうほど、地を掃うような不気味な声であった。 (なるほど。こんな悪霊に憑りつかれたら、ノイローゼになって体調を崩してしまうよなあ)  原因が分かって納得した。 (なんとかアレを取り除かなきゃ)  まずは、相手を知るところから始める。  この場で解決が難しいようなら、一旦引き上げる覚悟で質問した。 「僕はヨシタカと言う者だけど、君は誰だい?」 『………………』 「ん? どうかした?」  悪霊は、自分を見ても恐れず逃げず、質問までしてくるヨシタカに、意外にも動揺している。 (これは話し合いでいけるかも)  方向性が見えてきた。
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