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『ワァ……ア……』
(な、なんだ? )
悪霊が唸りだしたので、ヨシタカは戸惑った。
『タァ……シ……ノ……』
(ワアアタシノ……、ワタシ、ノ? 私の?)
悪霊が何かを伝えようとしているので、真剣に耳を傾ける。
『ナァ……、マ……、エ……、ハァ……』
(名前は?)
やはり、喋ろうとしている。ただ、上手に声を出せていないだけである。
『オ……ンノ、キ……コ……』
「おんのきこ?」
『オンノキコ……』
「それが君の名前? どうして彼女に憑いている?」
『コォノ……コォ……ノ……カ、ラ……ダ……ホ……シイ』
「この子の体、欲しい? 乗っ取りたいということか。残念だが、それは許されない。早く彼女から離れて欲しい」
『……』
「――と、言ったところで、素直には離れないか」
『アアアア……』
急にオンノキコが取り乱した。
「どうした?」
『アアア! ブワア!』
空中をグルグル回って暴れ始めたので、ヨシタカは、落ち着かせようと宥めた。
「分かった! 落ち着いて! 君の願いは、僕がちゃんと受け止めるから! 君は何か苦しい死に方をした。どうしても納得いかない死だった。だから、現世への未練を断ち切れなくて、こうして誰かの魂を身代わりにして、肉体を取り戻そうとしている。そう言う事だね?」
『アアア……、アー! アー!』
オンノキコは、ヨシタカの言葉で大人しくなると、今度は号泣し出した。
初めて分かってくれる人が現れたという感じなのだろう。
(これは、よほど悔しい死に方をしたんだろう。もしかすると、誰かに殺されたのかもしれない)
『アウウ……、ワアア! アウウウ!』
彼女の泣き声がヨシタカの胸に突き刺さる。
「少し聞かせて欲しいんだけど、どこで死んだの?」
『ガッコウ……』
「学校? もしかして、この子と同じ高校?」
『ソウ……』
「高校で死んだのか。よく分かった。この件は僕に任せて欲しい。必ず君の怨みを晴らしてやる。だから、この子をこれ以上苦しめないでやってくれ」
『……』
オンノキコは、静かに姿を消した。
「納得したのかどうか分からないが、時間稼ぎにはなりそうだ」
環奈のモニターを見ると、数値が少し回復している。
「思った以上に時間を使ってしまった。そろそろ戻るか」
霊視を終えて、自分の体に意識を戻した。
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