私を忘れないで

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ぎこちない手つきで私の頬に手を添えて、ゆっくりとジャンの顔が近づいてくる。 この後予想される行為に、ただじっと目を閉じて待つことができたなら、どんなに嬉しいか。 私は、そっとジャンを押し返した。 「ごめん。ジャン。 ダメ、できないの。 私……結婚するの。」 私は、ベンチから勢いよく立ち上がった。 ジャンの顔を直視できなくて、ジャンへ背中を向けたまま言葉を続ける。 「私も、今日で17よ。そろそろ結婚しなければいけないの。お父様の決めた方と。今日、婚約するの。 ごめんなさい。ジャン。ありが━━‼︎」 突然、背中に鈍い衝撃を感じて倒れ込んだ。 痛いとか感じる間もなく、何が起こったか分からない。 ただ苦しくて…… 目の前に生温かい液体が広がるのが見える。 これは……血? 「フローラ、いまさら許さないから! 貴族のお嬢様なのは知ってるさ。散々僕の気持ちを弄んでおいて! この後に及んで捨てるの? 卒業して、花屋に勤め始めて、フローラは僕に寄り添ってくれてるんだと思ったのに。 なのに…なのに、他の男と結婚するだと! 僕を忘れるなんて許さないよフローラ!」 横たわる私を見下ろすジャンの手には、赤く染まったナイフが握られていた。 怒気を含む声色とは裏腹に、苦悶の表情を浮かべている。    どうして、そんなに辛そうな顔をしているの? 「━━ジャン、ごめ…ん…ね… だい…好き━━」 苦しそうなジャンに、手を伸ばそうとしたけれど、パタリと脱力した。 「っ!フローラ!フローラ! 僕はなんてことを!! うわーー‼︎ フローラーー‼︎ フローラ! 僕も 愛してるんだ━━僕だけの……フローラ」
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