こんてすと

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 ***  それを聞いた時、紺野はいささか驚いた。  不合格、不採用。そんな失敗は世間にありふれている。だから兵藤が使った「死刑宣告」という言葉が意外で、最初はミスマッチだと思ったのだ。少しして。  そうか、兵藤にとって、コンテストに落ちるというのは、それだけの大事なのか――。  そう納得した。すると今度は、彼に対する同情心が芽生えてきた。  紺野と兵藤は、お互いに世話を焼くような間柄ではないが、数年来の友人だ。兵藤が小説を書いていることは大学の頃から知っていたし、卒業後はアルバイトを掛け持ちしながら執筆を続けていると聞いて、その熱意に尊敬の思いも抱いていた。  小説の大変さは正直分からない。でも、彼の努力や苦労の片鱗は、時々うかがうことができた。  そうして完成させた小説が「死ぬ」。コンテストという、内部事情の不透明なブラックボックスによって。それがどんな気持ちかも、門外漢の紺野には上手く想像できないが、平然と乗り越えられる辛さではないのかも知れない。  それを何度も繰り返しているなんて、さすがに気の毒だ、と思った。多少酒も影響しているだろうか。  ともあれ、兵藤と別れた紺野は、早速、帰りの電車でコンテストについて調べた。居酒屋で言っていた、彼が次に応募しようとしている賞は、来月が締切。時間ならまだある。  自宅マンションに着くと、シャワーの準備をする前に、愛用のワークチェアにトスンと収まった。迷ったのは数秒で、ほろ酔いの気分に任せてポチポチとメッセージを打つ。  数撃てば当たる。失敗してもまたトライすればいいだけだ。  兵藤もそんな風に、気楽に考える訳にはいかないのだろうか。  何人かに連絡して気長に待つつもりだったのに、すぐに父親から返事があった。一読して、紺野は微笑んだ。予想以上の手応えだ。 「聞いてみるもんだな」  明るい未来への順調な滑り出しに、紺野はワークチェアをギイギイと上機嫌に揺らした。  
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