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コンテストの結果が出た。
それから一日待って、紺野は兵藤に何気ないご機嫌伺いのメッセージを送った。
既読にはなったが、返信が来ない。
何かあったのだろうか。そう訝しく思いながら、紺野は兵藤のアパートを訪ねてみることにした。
ここには一年ちょっと前にも来たことがある。他の友人達も交えて、他愛のない話やゲームをして過ごしたワンルームは、連絡が急だったせいもあるだろうが、その時よりも荒れていた。キッチンに溜まったカフェオレのボトル、床に投げ出されたままのようなリュックや手提げカバン。机の上は、乱雑に置かれたノートパソコンや紙や筆記用具に占拠されている。
渋々といった様子で、紺野を迎え入れた友人は、さっさとイスに腰かけた。覇気のない表情、目の下には濃い影もある。
どうしてだ。本当なら彼は今、喜びにあふれた顔をしているはずだったのに。心配と、それ以上のいら立ちとで、紺野は自分から切り出さずにはいられなかった。
「返事がないから、どうしたのかと思ったよ。受賞、したんじゃないのか?」
「何で紺野が知ってるんだ?」
「え……」
ネットで見た、とすぐに言えればよかったのに、後ろめたさからか、思わず返答に詰まってしまった。それがまずかった。
兵藤は、驚きと恐怖と何かが混ざったように、目を大きく見開いた。
「紺野、お前だったのか」
「何のこと?」
白を切ろうとしたが、その声は不自然に硬かった。もうごまかすのは無理だろう。
兵藤がコンテストでの落選を深刻にとらえていることを知り、紺野は友人として、何かできないかと考えた。そして、審査員に密かに働きかけることを考えついたのだ。幸い、父親の社長仲間が主催者にコネを持っていたので、その目論見は実現した。
元々審査の内容は非公開だ。露見することはないと思っていたのに。
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