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新年には、日本に帰国し、貫太と律は、忙しい年末年始の間に、わずかだが一緒に時間を過ごした。
貫太が、アフリカに戻り、二月の始め。
つまり、大智と、春馬の約束の一年が、少し過ぎた時だった。
その、事件は起こった。
貫太は何度も、大智に病院に行くように勧めたし、大智の秘書として赴任していた、内田にも相談をした。
内田も、大智の変化に気が付いていたらしく、病院に行くしかないように、段取りを整えた矢先だった。
「岩が落ちて来る! 逃げろ! 」
現地スタッフが、現地語(ズールー語)で叫んだ。
貫太の少し前に立っていた、大智は、その声に、振り向きもしなかった。
貫太の頭の中で、警鐘が鳴った。
このままでは、大智は、確実に、土砂の下敷きになる。
手を伸ばせば、身を翻せば、まだ間に合う、大智に届く。
とっさにとった行動だった。
貫太は、大智を素早く引き寄せ、転がるように、横にとんだ。
舞い上がった砂埃が、視界を塞ぐ中で、ただ『律に、会いたい』と思った。
いつもの、透きとおるような、律の笑い顔が蘇った。
律から貰った指輪の光る左手を、ギュッと体に付けて守ったつもりだった。
爆発するような、大きな音が響いた、貫太は、体の右側が、燃えるように熱くなるのを感じた。
遠くで、誰かが、自分を呼ぶ声を聞いたが、意識は、遠のき、目の前は暗くなっていった。
『律』と呼んだつもりが、音にはならなかった。
『愛している』といったら、また、なかせてしまうだろうか。
次に目が覚めた時には、眩しい光が、目の前にあり、コレはきっと手術台の上だと思った、そのまま、酸素マスクを掛けられて、又、目が開けていられずに、閉じた。
遠のく意識の中で、指輪の存在を探ったが、体が冷たくて、何処が自分の左手かも、わからなかった。
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