長谷川×山岡編

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 長谷川に痛いほど強く抱き締められて、山岡は息を詰めた。苦しいが、嬉しい。ちゃんと言葉にして良かった。先ほど湯殿で置いて行かれた時、自分が下手にビクついたせいで怒らせたのだと思った。湯上り後の長谷川は普段通りだったけれど、いつもなら強引なくらい一緒に眠ろうとする。それなのに彼はベッドを別にすると言った。悲しかった。やはり怒っているのだと思ったら、ひどく怖かった。嫌われたのかもしれない。これまで何度も迷惑をかけた。愛想を尽かされた可能性は高い。  山岡は心から怯えた。涙が出てきて布団に籠り、どうすればいいのか必死に考える。しかし考えも、言葉もまとまらない。泣いているのが分かったら益々嫌われるかもしれないと、悪い方に思考がどんどん転がり落ちた。けれど。違った。そうではなかった。生まれて初めての告白は震えていて泣きながらだったけれど、言いたいことは言えたと思う。  おずおずと長谷川の背中に手を回し、抱き締めてくれる彼を抱き締め返した。温かい。ホッとする。なのに、胸がドキドキする。不思議な感じだった。 (なん、か……熱い)  体が火照る。徐々に呼吸が浅く、すり抜ける息がいつになく湿っぽい。長谷川に変に思われたらどうしよう。不安だったが、体はどんどん熱くなり山岡の肌はしっとりと汗ばんでいた。  そっと塞がれる唇。長谷川とキスをするのは、何度目だろうか。最初は啄むだけだったそれが角度を変えて深みを帯び、滑り込んできた舌先に歯列を割られた。ザラザラとした硬口蓋を舐められ、逃げる舌先を追われて、山岡は長谷川にしがみ付いたまま体を震わせる。  キュ、と長谷川の服を利き手が掴み、淡い愉悦に下肢を動かせば大きな手のひらが腿を撫でてきた。肌を堪能するかのように撫で回してくる長谷川の左手がやけに淫猥で、先ほどまでの手指とはまるで別物のようだ。  名を呼ばれる。目が合った。濡れた視線に、何もかもを理解する。なんとなく察してはいたが、改めてとなると緊張した。 「嫌?」  長谷川のことだから、本気で山岡が嫌がれば無理強いはしない。けれど。山岡は首を振った。横にだ。 「で、でも……俺、初めてで。ただでさえ、男だし……色々面倒かと」 「そんなこと思うわけないだろう? 俺がどれだけ我慢してきたと思うの?」  一人称が俺に固定されつつある長谷川に、もう違和感はない。そうだったのかと頬を赤らめた。 「っ、ぁ……ンっ」  バスローブの隙間から、長谷川の手が胸元へと伸びてきた。そこにある突起を抓まれて、思わず変な声が出る。顔を背け、口を手の甲で塞いでみても無駄だった。 「ここ、舐めていいよね」  はだけたローブの隙間から覗く、両乳首。薄く色づくそこに、長谷川の目を細めた。 「……綺麗だ」  ぽつり、感嘆の息の交じる長谷川の声。押し付けてくる腰のものはハッキリと形を変え、逆に体を引こうとする山岡を押さえつけるように体重をかけてきた。 「っ、ぁ……あ」  柔らかな突起を乳輪ごと抓み、赤い舌先がチロチロと舐めてくる。そこにそれがあったことすら忘れていたようなところなのに、いざそんな風にされると堪らなかった。くすぐったいような、もどかしいような感覚。空いている方の手で逆側の突起も抓まれて、指の腹で捏ねるように潰される。 「ン、っぅ……ぁ」  これは予想外。まさかこんな風に胸に興味を持たれるなんて思わない。山岡は男だ。ふくよかな胸なんてない。それなのに、長谷川は胸を弄られて身悶える山岡にひどく興奮した素振りで小さな突起をせめてくる。  舐られて、弄られて。ぷっくりと起き上がったそこが赤く色づき、濡れる。 「な、んで……」  少し乱れた息の中、山岡が口を開いた。 「なんで?」  質問の意味が分からなかった長谷川が、オウム返しに尋ねる。 「だって、面白く、ない……でしょ? 柔らかくないし……」  ごく平凡な真っ平な胸。凹凸などない。単純に疑問に思ったので問いかけただけなのに、長谷川の纏う空気が雰囲気を変えた。しまった、何か間違えた。そう思うが既に遅い。 「え、っぁ、待っ……ンぁっ」  カリ、と甘く突起を噛まれて全身が震える。音が鳴るほどきつく吸われ、背を弓なりにしならせて喘いだ。身に着けていたローブを剥ぎ取られ、ベッド下に放られる。全身に刻まれる鬱血に戸惑いながらも体は更に熱を発していた。全身が火照る。こういうものなのだろうか。比較できる経験がないせいでそう思うしかなく、山岡はただただ長谷川の下で身を身悶える。  下肢がムズムズする。肌が汗ばむ。視界が潤む。喉をすり抜ける吐息も濡れていて、撫でられる腰に山岡は甘く喘いだ。どうしていいのか分からないし、どうすればいいのかも分からない。ひどく緊張しているのに体だけがやけに熱く、それが少し怖かった。 「えっ、やっ、……ン、ぁ、っ」  なんの躊躇もなく屹立を口に含まれて目を剥く。初めて知る口腔内の感触に、山岡は無意識に腰を逃がそうとする。だがベ長谷川に腰を掴まれていてビクともしない。体格差は歴然で、動こうにも動けなかった。言葉が声にならない。甘ったるい声が喉をすり抜ける。根本から強く吸われると下肢に力が入って上手く抗えない。ゾクゾクとした快感が自分でたまにするものとは比較にならず、すぐにイってしまいそうな自身に焦った。放してくれと頼むのに、長谷川は聞き入れてくれない。それどころか陰嚢を口に含まれて、扱きながらそれを甘く吸われてしまう。しかも裏筋まで舐められて、いくら綺麗に洗ってきたとはいっても居たたまれなかった。本当に気持ちが悦い。これ以上は堪えきれそうにない。 「ホント、ぁ……駄目って、だめ、っ、だめ、隼人さ……っ、ダメって……、ば」  腕に力を入れて長谷川の頭を引き剥がそうした瞬間。鈴口に尖らせた舌先をねじ込まれて呆気なくイってしまった。本当に一瞬の出来事だった。掠れた悲鳴と震える内腿。小刻みに揺れる下肢。断続的に吐き出す白濁。せり上がる快感に羞恥心も駆け抜ける。重いようなそれが全身を貫いた一瞬後、山岡は我に返って青ざめた。  よりにもよって長谷川の口の中に吐精してしまった。これは一体どれだけの失態かと軽いパニック状態だ。  しかし長谷川は怒るどころか残滓を舐め取り、まだも出ないかと亀頭を吸い上げてくる。イったばかりの屹立にそれは些か刺激が強く、山岡は首を振って嫌々をした。涙目になって放してと頼むのに、長谷川は聞き入れてくれない。  胸の突起に手を伸ばされ、吐精後の屹立と同時に弄られる。大きく腰が跳ね、つま先が痺れた。変なものが這い上がってきそうで、山岡は強引に体を反転させて涙目で告げた。 「も、もう、出な、ぃ……っ」  息も絶え絶えにそう告げて、山岡は体を起こそうとする。次は自分が長谷川のようにやればいいのだろうかと単純にそう思った。男同士のセックスがどんなものなのか、そちら方面に無菌状態で育った山岡は知らない。  今時それはないだろうと驚くかもしれないが、性の話をする友人などはおらずインターネットに接続できたのもここ数年のこと。検索する項目は仕事のことだったり、必要な公的手続きのことだったりと、根が生真面目なのでそういう動画を見たことがない。  見事なまでの無知と耐性のなさ。そして、それを長谷川はなんとなく察していた。ぷりん、と盛り上がった双丘を眼下に、決して山岡には見せられないような悪い顔で舌なめずりする。 「ひ、ぁぁ……!」  上体を起こそうとした山岡は、いきなり背中を舐められて肩を震わせた。浮いた腰を持ち上げて、弾力のあるピローを間に入れられる。一体何事かと後ろを振り返ると、腰を啄む長谷川の姿が見えた。今度は何をする気か、少し不安になった。  顔を上げた長谷川と目が合う。それだけで肌が粟立つ。睨まれたわけでもないのに、射竦められる。怖くはない。だが、目は口程に物を言うとは、おそらくこのこと。どれだけ長谷川が自分に欲情しているのが分かる強い視線。隠そうともしない激しい劣情。きっと、さっきのあれはささやかな戯れ。まだ何も始まってもいないのかもしれない。  ちゅ、と音を立てて長谷川が臀部に唇を落した。視線はこちら向けたまま。だから分かった。これから何をするのか。どこを、使うのか。首元まで真っ赤にして羞恥に首を横に振るが、長谷川は許さない。まるで見せつけるようにして双丘を割り、山岡が逃げる前にそこへ顔を埋めた。 「っ、ぁ……ぁ、ぁ……ン」  瞠若する先は濡れていて、唇はあまりのことに戦慄いていた。今思えばそこを差し出すような体勢。逃げようにも足に力が入らない。襞に触れる生温かい舌先。滑ったそれは丁寧に襞の一枚一枚を舐め上げ、頑なに窄まるそこをゆっくりと解してゆく。  やめて、と懇願した。そんなところに触れていいはずがない。汚い、と本気で許しを請う。けれど長谷川は気にした様子もなく舌を動かし続ける。  山岡は両手でシーツを握り締め、初めて味わう感覚に腰を揺らした。そんなところを舐められて恥ずかしいのに、背徳感にも似た快感がたまらなく悦かった。火照る体が益々熱を帯び、水音が大きくなるにつれて声が抑えられなくなる。 「ンぁ、ぁ……隼、と……さ、っ、ぁ……っ」  ぬぷ、と襞を割りゆっくりと入ってくる長谷川の舌先。体を内側から舐められる感覚に腰が逃げる。実際はピローが邪魔をしてほとんど動いていない。そのまま根本まで舌先をねじ込まれた。わずかに届く微かな盛り上がり。そこを丁寧に舐められて、大きく背がしなった。 (な、何……、これ……、何)  熱い。むず痒い。こんな感覚は知らない。戸惑う山岡が歯を食いしばって嬌声を堪ええるうちに、舌が引き抜かれる。すぐに背後で何かの蓋を開ける音がした。それは小さな瓶。長谷川が指に垂らしている。  潤滑剤だろうか。だがすぐに別のジェルにも手を伸ばした。何故そんなものが用意されていたのか、疑問でしかない。しかも未開封だ。だが挿入された指先に、すぐにそれどころではなくなってしまう。  決して山岡を傷つけぬよう、一本だけ静かに挿入された長谷川の指。舌先では届かなかった部分に指の腹が触れ、また舌よりも強く刺激されて額をシーツに押し付けた。  痛くはない。苦しくもない。ただ、とても変な感じだ。違和感の中にある不思議な疼き。それは一瞬、一瞬、瞬く間に大きくなって山岡を翻弄し始める。 「ふ、ぁ……ンン、ぅ、ぁ……っ、隼人さ、待って、なんか、ぁ、んっ」  クチュクチュと淫猥な音に自身の声が負けずに大きくなった頃。ガタンッ。隣から大きな物音が聞こえた。ビックリしてそちらを見る。長谷川の指の動きも止まった。ほんの少しだけ開かれた隣に続く扉。不安になってそちらを見ていると、長谷川が指を引き抜いて背中越しに優しく伸し掛かってきた。 「荷物をね、適当に積み上げてたから。落ちちゃったのかな」 「荷物……?」 「ごめんね、ビックリしただろう? 僕の仕事道具とか、趣味のものとか適当に入れてあるんだ」 「そうなんですか」  また一人称が戻っていることには気付かず、荷物が落ちただけかと胸を撫で下ろした。  正直驚いた。隣に誰かいるのかと思った。 「一つ落ちたから、これは雪崩れるかも」 「え、それって危ないんじゃ……」 「大丈夫。あとでちゃんと片付けるよ。誰も……いないしね」  頬に口づけられ、気にしなくていいと微笑まれる。 「続き、してもいい?」 「は……はぃ」 「物音がしても、気にしないでね」  照れながらも素直に頷く山岡の髪を、長谷川が優しい顔でそっと撫でた。  そ、と視線が山岡から外れる。冷たいそれが扉の向こうを見遣る。ほんの一瞬長谷川の唇が歪み、低く唸るような声で小さく呟いた。 「まだまだ、これからだぞ……」  上手く聞き取れなくて、山岡が長谷川を振り返って何かと尋ねる。しかし長谷川は誤魔化すように山岡の首筋に顔を埋めて薄い皮膚を吸い上げた。 「暴走しちゃわないように気を付けよう、って」 「暴そっ?」 「尚が好き過ぎて怖いんだ。自分でも。尚も、俺のこと好きでいてくれてる?」 「当たり前です。じゃなきゃ……こんなこと、しません」  真っ赤になって俯く山岡に、長谷川が嬉しそうに目を細めた。そっと山岡が長谷川の手に自身のそれを重ねる。長谷川の方に顔を向けて、しっかりと想いを口にした。 「大好き、です」 「俺も大好きだよ」  こめかみに触れる唇。それが肩に触れて、再び指にジェルが塗られた。中に入ってくる。山岡は息を吐いて彼の指を受け止め、奥まで入れられた中指に内壁を甘く収斂させた。 「愛してる、尚」  目の前がチカチカする。こんな感覚は知らなくて、山岡は潤む視界を細めてシーツを掴んだ。歯を食いしばっていてもフーフーと息が漏れて、額をシーツに押し付けたまま身悶えていた。 「ここ辺り、かな?」 「く、んんぅっ」  子犬が泣いたような声が出てしまい、恥ずかしくて顔を伏せる。背中を長谷川に向けているので多少羞恥心が守られているが、だとしても相当に恥ずかしい。 「ふふ、可愛い声」  背中を舐められながら指で内壁を擦られて、勝手に腰が浮く。 「舌より強いから、気持ちイイね?」  答えられない。それどころではない。ぐちゅぐちゅと抽挿する水音が山岡の劣情を呷り、大胆に下肢を突き出したまま甘く喘ぎ続ける。 (ぁ、……指、が)  更にもう一本増やされて、圧迫感が増した。痛いかと訊かれるが、痛みは全くない。素直に首を横に振る山岡の背筋を尖らせた舌先でなぞり、長谷川がうなじを啄む。生まれて初めて背中を舐められ、ゾクゾクとした感覚に山岡は長谷川の指を締め付けた。生々しく感じる長谷川の指。的確に前立腺を押すようにして擦る彼の手指に、山岡は全身を色づかせて応える。  気持ちが悦かった。そんなところを擦られてここまでイイものなのかと、困惑せずにはいられない。 「いい子だね……尚」 「ぁ、っ……ぁ、ン、ぁ」  三本目の指が中に入ってきた。さすがに多少の圧迫感はあれど、まだ痛みはない。むしろオイルのお陰なのか滑りよく、痛みとは無縁。さすがに変なのでは、と思うが上手く思考が回らない。オイルの香りを吸い込む度、体の奥が疼くような気がする。ズクズクと不思議な焦れ。どうにかしたいのに大きくなるばかりで、山岡は長谷川の指を旨そうに咥えたまま腰を上下に揺らした。 「痛い?」 「……く、ない」  良かった、とこめかみに唇が寄せられ、そのまま唇を吸われてしまう。長谷川とのキスは好きだ。口の中を弄られると気持ちがいいし、舌を絡めると長谷川に求められてる感じが強くて満たされる。 「ゴロンってしようか」  耳朶に甘く囁かれて導かれるまま仰向けになった。正面にある長谷川の顔が見られなくて顔を背けてみるが、真っ赤なになった耳を舐められると声が上擦った。  長谷川が身に着けていたものを脱ぎ始める。露になる逞しい体に、本当に同じ男なのかと自分の体を二度見してしまった。悔しいが、どれだけ望んでも長谷川のようにはなるまい。ただでさえ筋肉が付きにくい体質で、ソルーシュに入ってからは体力向上のため筋トレも頑張っているのに現実は中々厳しい。  今からこの男に抱かれるのか。そう思ったら、なんだか急に焦り始めた。ドキドキする。ソワソワする。フワフワする。 (というか、入るのか……? ソレ)  視線が泳いでしまうほどの、長谷川の屹立。軽く勃起しているだけでそれなのだから、本格的な段階になるとどうなってしまうのだろう。一人で青くなったり赤くなったりしている山岡の耳に、また大きな音が隣から聞こえてきた。微かに唸り声も聞こえるような気がして、山岡は顔を強張らせる。 「あの、……なんか唸り声が」 「野犬かな。夜になると聞こえることがあるんだ。保護団体が動いるみたいだけど、危ないから外に出ちゃ駄目だよ? まったく動物を捨てるなんて、最低だね」  確かに最低だ。だが、怪奇現象の類でなくて良かった。安堵に胸を撫でおろして覆いかぶさってきた長谷川を抱き留める。温かい素肌。こうやって誰かの体を抱き締め返したことが、これまであっただろうか。そんなことを考えながら唇を重ねていると、長谷川がどこに用意していたのかゴムを取り出して装着し始めた。手際よくそれを着け、山岡の舌を優しく吸い上げる。 「ン……ぁ」  夢中でキスに応じていると、長谷川の指先が山岡の下肢を撫でた。そのまま両足を持ち上げられて、体が無意識に強張ってしまう。しかもウーウーと激しい唸り声がまた聞こえてきて、思わず長谷川にしがみ付いた。 「大丈夫、怖くないよ」 「でも、なんか近っ、ぁ……え、ぁ、待」 「これ以上のお預けは辛いな」  襞に触れる切っ先。緊張する山岡にキスをしながら、長谷川が髪を撫でる。トロリ、オイルが屹立に足された。クチュクチュと扱かれて一気にスイッチが入る。快感にのけ反ったのと同時、長谷川が襞を割った。ゆっくりと入ってくる。当たり前とはいえ、指や舌とは全く違う圧倒的な質量。重い圧迫感とわずかな痛み。限界まで拡がる襞。 「ぁ、っ……ぁ……、ぁ、っ、ぁ」 「尚、息を吐くんだ。そう、上手だよ。ゆっくり吐いて。そうだ」  山岡に呼吸させる長谷川も、予想以上に狭い内壁の中に目を眇める。すぐに萎えた山岡のものを扱き、快感を追わせ始めた。オイルが飛び散るほど激しく屹立を扱かれ、徐々に痛みが遠のいてゆく。体が勝手に弛緩し、気持ち良さそうな声が室内に甘く広がった。 「……まだ、これ以上は無理か」  上手く聞き取れなくて視線を向ける。それに気付いた長谷川は優しい笑顔で山岡の唇を啄んだ。 「ごめんね、痛いよね? ゆっくり動くから」  山岡を愛おしそうに見つめたまま、長谷川が体を起こした。汗ばむ前髪をかき上げ、山岡の屹立を扱きながら腰を揺らす。 「ぁ、っ、ぁ、ン、ン、ぁ、……ぁ」 「ここ、さっきの気持ちイイところ。いっぱい擦ってあげるね」 「ン、ぁ、ぁ、っ、隼人さ、……ンぁ、っ」  広がる快感。小刻みに揺さぶられているだけなのに長谷川のものがイイと教えてくれた場所を擦ると、全身が痺れるほど悦かった。同時に亀頭の裏筋を親指の腹で撫でられ、勝手に声が出てくる。 「や、ぁンンっ」 「乳首も気持ちイイね?」 「やだ、全部は……だめ、ダメ、ね、隼人さん……だめ、って……!」  左手指で乳首を抓まれて、右手で屹立を扱かれ、前立腺を太くて大きなもので擦られる。徐々に何も考えられなくなって胸を突き出すようにして喘いだ。すると、ツンと尖った乳首を甘く噛まれて無意識に長谷川のものを締め付けてしまう。 「あぁ、こっちが好きかな。尚は」 「ふぁ……ぅ、ン、ン、っ、ぁ、ン」  乳輪ごと音がするほどに吸われて腰が浮いた。裏筋を撫でられた瞬間、軽くイってしまい内腿が震える。右の乳首だけぷっくりと膨らみ、空気に触れただけで感じてしまった。今日この日まで気にもしたことがなかった部分なのに、長谷川に弄られるともうたまらない。  めいいっぱい拡がる襞の中。ズクズクと疼いて妙な気分になってくる。胸を舐められて何故そんなところが疼くのかが分からない。ゆっくり、ゆっくり、長谷川に高められてゆく多幸感。尚、と名前を囁かれるだけで幸せな気分になってくる。だが、不思議なことに優しくされればされるほど焦れにも似た疼きが強くなってきた。それはどんどん強く重く山岡の中で蠢き出し、たまらず山岡は長谷川の二の腕を撫でた。 「ん?」  耳朶に舌先を滑り込ませてくる長谷川に肌が粟立つ。するとまた一段と焦れが大きくなった。 「隼、と……さ、ん。なんか、俺……」 「どうしたの?」 「……、……お、しり」 「痛かった? 抜こうか」 「っ、じゃ、……なくて、そ、の……」  恥ずかしい。こんなことを口にして嫌われないだろうか。淫乱だと思われないだろうか。長谷川に失望されたくない。怖い。目元の赤みが退く。長谷川に嫌われたらどうしようと、その不安が甘ったるい快感を遠ざけた。分かりやすく表情を強張らせた山岡に、長谷川が彼の全身を確認する。  しっとりと汗ばんだ肌。勃起したままの屹立。もっと吸ってくれと言わんばかりに尖った乳首。白い肌に散る鬱血は山岡の快感を追わせ、今の今まで気持ち良さそうに喘いでいた。それが急に不安げな表情を浮かべて押し黙っている。 「どうしたの? 教えて?」 「っ、……。俺……軽蔑される、かも」  軽蔑、と聞いて無駄に回転の良い長谷川の頭が山岡の言いたいことを、なんとなく察して目を細めた。柔らかな髪を撫でながら、するわけない、と唇を寄せる。 「でも……」 「本音を言うと、もっと欲しがってくれると嬉しいな」  少し驚いたように山岡が長谷川を見上げた。また目元が赤くなる。それが可愛くて自分の顔がニヤけ過ぎていないか怖くなったほどだ。なんて素直な子なのだろう。 「ここ、擦られるのは?」 「ン、ぁ、……い、ぃ、っ……ン、ぁ、……好き、っ、です……」 「もっと?」 「……も、っと……」  背をしならせて甘えてくる山岡に、一瞬にも満たない間、長谷川の動きが止まった。ギ、と軋むスプリング。両脚を抱え直し、その顔からは柔らかな笑みは消えていた。完全に雄のそれ。 「へ……? え、っ、ぁ、ぁ、ンンッ、待って、っ、速い……っ、はや、ぃ……っっ」  さっきまでとは全く違う鋭く重い律動。山岡は訳がわからぬまま寄越される快感に、ただただ喘がされる。上下する小さな体の中央で赤く濡れた屹立が淫猥に揺れ、全身で快感を訴える様に長谷川の目の色が変わった。気付けば根本まで長谷川のものを受け入れ、最奥に亀頭が届いている。あり得ない箇所に長谷川を感じて、否応なく穿たれた。痛くはない。むしろ奥を押すように突き上げられると電流のような快感が全身を走った。爪先まで深い愉悦で満たされ、山岡は涙目になって嬌声を散らす。前には触れられていないのに、屹立は今にも弾けそうだ。体が熱くてたまらない。声を抑えることもできなかった。 「あああぁぁっ、すご、っ、ぁ、ぁ、ぁ、気持ち、ぃ……っ、ぁ、そこ、い、ぃ……っ」  激しく乱れる山岡を眼下に、長谷川の腰は容赦なく彼を追い立てる。襞が捲れるほどの抽挿と、あられもない山岡の媚態。普段色気とは縁遠く、どちらかといえば清廉な印象の強い山岡が、長谷川のものを突き上げられて仰け反り、濡れた声で甘く泣き続けている。 「は、やと……さ、ンンぁ、ぁ、っ」 「凄く中が熱い。気持ちいいね?」  こんな時でも素直な山岡は、ガクガクと首を縦に振りながら快感を伝えてくれた。それが長谷川は可愛くてたまらない。当の山岡にその気はなくとも、あらゆることが彼を煽る要因となっていた。 「俺も最高に気持ちいいよ、……っ」  奥を穿ったまま抱き締められて山岡の小さな体が震える。グズグズになりながらも長谷川の背に両手を回す山岡。長谷川は最奥を押し付けたまま噛みつくようなキスで彼の唇を塞ぎ、そのまま腹で山岡の屹立を擦った。 「ぁ、ぅ……っ、イ、く……っ、イっちゃ、ぁ、ぁ、ンぅぅ……っ」 「いいよ、好きなだけイって」  甘い声で囁かれ、山岡は長谷川にしがみ付いたまま額を彼の肩口に宛がう。短く息を詰め、二度目の絶頂を迎えた。気持ち悦さそうに長谷川が息を吐く。蠕動する山岡の内壁に扱かれて、危うく持っていかれそうになったが、どうにか堪えて体を起こした。  二度目だというのに、べっとりと腹に付いた白濁へ躊躇なく指を這わせて掬い取る。それをまるで山岡に見せつけるようにして舐めた。  目を瞠ったままこれ以上になく真っ赤になる山岡が、長谷川と目が合うや羞恥に負けて顔を背けた。あり得ない。そう呟く唇ごと顔を両腕で覆い隠す。さっきは直接飲まれたはずなのに、見せつけられたことが相当恥ずかしかったようだ。 「尚、可愛い」 「知りません……っ」 「でも、ごめんね。もうちょっと付き合って?」  そうだ。自分は二度もイったが長谷川はまだ一度もイっていない。中のものは益々熱くなるばかりで、彼に我慢させているのが山岡にも分かった。腹の奥で脈を打っている長谷川のもの。彼の屹立が腹の中にあると思えば、不思議なような恥ずかしいような、なんとも言えない気分だった。  そ、っと下腹部を撫でてみた。 「……隼人さんの、ここまできてる。お、き……ぃ」  ゆらり、長谷川の体が揺れたのは、そう呟いた直後のこと。  山岡は単純に凄いなと思っただけなのだが、そうは問屋が卸さない。長谷川の肩に足をかけられて、そのまま足首を掴まれたまま抽挿された。 「そんなこと、俺以外にしたら殺す」 「しな、っ、しない……っ、ぁ、や、ぁ、っ……奥、おく……っ、や、ビリビリ、する……っ」 「ああ、こんなに深く咥え込んで。すごく絡んでくる」 「ひ、ンンぅっ」 「自分で乳首を弄ってごらん? 気持ちいいから」 「や、やだ、そんな、できな……っ」 「淫乱な尚が見たい」  潤んだ瞳がきつく閉じられる。恥ずかしいとすすり泣く山岡だが、長谷川のために指先を両方の突起に持っていった。 「いい子だ。抓んでごらん」 「は、んぁぁ……っ」  言われた通り人差し指と親指とで尖った乳首を抓むと、それだけで屹立に芯が通った。薄く開いた唇から気持ち悦さそうな声が漏れ、指は夢中で突起を弄り出す。クリクリと左右に弄るのが気持ちがいいのか、そうすると腰が大き揺れて一層強く長谷川のものを締め付けた。それを押し開くようにして長谷川が律動する。 「舐めたいな。いいよね?」 「……ん。……、ぃ……」 「どっちを舐めようか。片方にしようかな」 「っ、ぁ……ぅ」 「それとも、交互に舐めようかな」  分かりやすく収斂する内壁。濡れた視線が長谷川に届く。 「……いじ、悪……しない、で……」  眦から溢れる涙。長谷川は完全に射抜かれて、望まれるままに両方の突起を交互に愛撫した。  どうやら胸が感じるらしい山岡は、長谷川の小さな頭を両手でそっと抱き締めて甘えたように体を差し出す。長谷川はお構いなしに赤い鬱血の花を肌に散らし、独占欲丸出しに刻んでゆく。 「隼……と、さ……ん、も、っと……舐め、て……いっぱい」 「たまらないな……」  山岡が求めるまま長谷川は隅々まで鬱血を散らした。長谷川になら何をされても構わない。そんな思考が芽吹いた頃、顔を上げた長谷川と目が合った。いつになくギラギラした瞳に心臓が跳ねる。キスがしたくて自ら顔を寄せた。キスをしたまま体を起こされ、気付けば長谷川の膝の上に乗っていた。  騎乗位は更に深く長谷川を受け入れることになり驚いていると、そのまま下から突き上げられる。仰け反りそうになる体を抱きとめられて、山岡は長谷川の体を抱き締めて身を委ねた。 「ぁう、っ、ぅ、ン、ぁ、ぁ、っ」 「尚……、尚、っ」 「は、やとさ……ンっ」 「愛してるよ」 「ン、ぁ……ぁ、俺も……ぁ、ンンっ、ぁ、深、……奥……当た、てる……っ」  初めてなのにこんなに感じていいのだろうか。まさかオイルに秘密があるなんて思いもしない山岡は、困惑しながらも長谷川がそれだけ上手なのだと信じて疑わない。実際、長谷川が上手いのは確かであるため、あながち間違えでもなかった。 「あぁぁンンっ、奥、当てないで……っ、ビリビリ、する、やだ……っ、やだぁ」 「っ、く」  きつく締まる内壁に長谷川が息を詰める。山岡の腰を固定し、律動のスピードを上げた。容赦ない抽挿に山岡は本泣きを強いられて、涙で顔がぐしゃぐしゃになりながらも快感に喘ぐ。 (気持ち、ぃ……っ。どうしよう、どうしよう、っ、また……イく、っ)  奥に亀頭の先が当たるたび電流のような快感が走り、それがたまらなく悦かった。 「っ、イク……、隼人さ、イク、ぁ……っ、ぁ……あぁ、だめ、出る……っ」  堪えきれず自分で屹立を扱く。強く蠕動する内壁に長谷川は再び山岡をベッドに寝かせて、腰を固定するなり打ち付けてきた。激しく打ち合う肌の音。飛び散るほどの水音。甲高い嬌声。  こんなに立て続けに吐精したことがない山岡は、そろそろ限界。息も絶え絶えになりながら自身の屹立を扱く。だが次は一緒がいい。長谷川も絶頂が近いのが分かったから、一生懸命に我慢した。 「一緒、が……ぃ、……っ」  嬉しそうに微笑んで、長谷川が応じてくれる。それからはベッドが揺れてうるさいほどの荒々しい抽挿を受け、山岡は歯を食いしばって絶頂を堪えた。しかし限界はすぐそこ。もう無理だと泣きそうになった時、尚、と呼ばれた。山岡の首筋に顔を伏せたまま、うわ言のように山岡の名前を呼ぶ。それを聞いていると我慢ができずにイってしまった。直後。最奥で大きく脈打つ感覚があった。それさえ感じて、山岡は泣いた。妙に気恥ずかしくて、嬉しかった。  ただ。腰に力が入らない。 「大丈夫?」  大丈夫に見えるのなら大したものだ。体に力が入らない。それを口にするのも億劫だった。指一本動かしたくなくて、息を整えながら高い天井を見つめる。長谷川の指先が、火照った山岡の頬を撫でた。それがなんだか気持ち良くて、ウトウトし始める。 「眠っていいよ。あとの始末は僕に任せて」  優しい声が、そんなことを囁いた。疲労感に負けて、お言葉に甘えることにする。あとの始末とはなんなのかよく分からなかったが、今はとても眠い。こんなことでは駄目だと思うのに重い瞼が持ち上がらない。  まだ野犬が呻いているようで、うるさかった。それから逃れるように呻き声に背を向けて、山岡は穏やかな寝息を立て始めた。髪を撫でられる心地良さと優しい手のひらに満たされながら、完全に意識を手放す。おやすみ。そう告げた長谷川の声がどことなく冷たく、低いことには気づかない。その視線がどこを向いて、何を見つめていたのかも。山岡は何も気づかなかった──。
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