長谷川×山岡編

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「探したぞ~、オイ。いやぁ、防犯カメラ様様だなぁ」  へら、と笑う赤いシャツを羽織る葉巻を咥えた男。それを傍に放り捨てると、傍にいた黒服の部下が丁寧に拾い上げて回収した。きちんと携帯灰皿に入れて胸ポケットに仕舞う。 「利逸さん、ポイ捨てはいけません」 「んだよ、いいだろ別に。この歓喜がお前には分かんねーのかよ」 「お嬢様たちの模範になるべきかと」  三十代と思しき部下に娘たちのことを出され、利逸が渋い顔をする。フンと鼻を鳴らし、背中を踏みつけている男に視線を戻した。 「お前のせいで叱られたじゃねーか!」 「人のせいにしないでください、叔父さん」  利逸の部下たちが腰を深く折って道を開ける中、長身の男が一人こちらへ近づいてくる。黒のロングコートを羽織り、仕事帰りなのかスーツ姿だ。我が甥ながら惚れ惚れする美貌と体躯の持ち主だと利逸が笑う。兄を彷彿とさせる井出達に、唇を歪めた。 「仕事終わったのか? 早かったじゃねーか」 「久峨(くが)が一時帰国しましたので、少し融通を利かせてもらいました」  なるほど、と利逸は納得したように頷いて部下に足元に転がる男を縛れと命じる。部下たちは慣れたように暴れまわる男を簡単に縛り上げ、そのまま彼を長谷川の前へ引きずって放った。  長谷川はポケットから煙草を取り出すと、そのまま一本取り出す。すかさず傍にいた黒服が火を寄こし、先日シックスマンスを無事に終えた肺を白煙で満たした。深く吐き出す紫煙が、いつになく白いのはそれだけ外気が冷えているからだ。 「仮初の自由は、味わえたか? 坊や」 「っ、テメェ……ッ」 「楽しかっただろう。英雄(ヒーロー)ごっこは」  紫煙をくゆらせ、長谷川が冷たく尚大を見下ろす。決して山岡には見せない、底のない表情。冴え冴えと美しく、優しさの欠片もない。冷たい風が裏路地を吹き抜け、頬を撫でた。長谷川はゆっくりと一つ瞬いて、指先一つで灰を落とした。その仕草一つ一つが絵になったが、妙に恐ろしいのは纏う雰囲気のせいか。 「お前の両親はさぞ喜んでいることだろう。散々金をかけて育てた息子に殺された上、あれだけ固執していた世間体を泥まみれにしたんだからな」 「テメェだって賛成したじゃねーか! なんでこんな真似するんだよッ! 俺は間違ってないッッ」 「賛成……? なんのことだ?」  とぼけた表情で首を傾げる長谷川に、尚大の目がこれ以上なく大きく見開かれる。それを笑ったのは傍にいた利逸だ。おかしくてたまらないといった表情で腹を抱えている。 「俺が、いつ、お前にあの二人を殺せと言ったんだ? お前が勝手にやったことだろう」 「ち、ちがっ、お前っ! 俺を騙したなッ!」 「だから、何をだ。俺はただ、お前に自由になれと言っただけだ。……そうだろう?」  愕然と、尚大が息を呑んだ。信じられないものを見るような目で長谷川を見上げ、その様を長谷川がどこまでも冷たく見下ろしていた。  正直、ここまで上手くいくとは思わなかった。長谷川も。利逸も。そして、泰造も。  山岡だけでなく、尚大もまた被害者といえば被害者だ。あの両親は自分の息子を愛してなどいない。愛していたのは、彼の優秀さだけ。そうでない息子など必要なかった。度重なる重圧と異常なまでの期待。長い間で育てられた鬱屈した心。今回、長谷川はそれを解放するべきだと刺激した。尚大が警察から解放されることに、山岡が怯えていたからだ。尚大はまだ若い。執行猶予がついて実刑にならない可能性が高かった。だから先手を打った。もっと別の罪を犯させようと思った。  尚大が何か問題を起こして刑務所に送り返すことが目的だったが、結果的に予想以上のものとなった。何せこの世から山岡夫妻が消えたのだ。これ以上嬉しい誤算があるだろうか。しかも殺したのは刑務所に送り返すつもりだった尚大本人だ。送り返すどころか出て来られない可能性も出てきた。  重畳。目を細め、長谷川が薄く笑う。灰を落とし、煙草を口に咥える。腕時計で時間を確かめ、先ほど利逸を窘めたのがなんだったのかと疑問なほど、自然に煙草を足元に捨てた。磨き抜かれた革靴で火を消し、ふぅと息を吐く。踏み潰された煙草は、やはり利逸の葉巻を回収した部下が同じく拾い上げた。  ここは尚大が山岡を連れ帰ろうとして、転がされた場所。今は尚大が地面に這いつくばっている。もう終わりだ。二度と、この男を山岡の前に立たせない。長谷川家の総力を挙げてでもだ。 「……どうして、尚まで殺そうとした」 「どうして? 当たり前だろ? アイツが、俺のものだからだよ。自由にしてやるのが、俺の使命だ」  未だに尚大が握りしめている携帯ライター。地面には灯油の入った小さなポリ缶と新聞紙。尚大は、ソルーシュに火を点けようとしたところを取り押さえられた。現行犯だ。山岡の行方が分からず、この店に火を点ければ戻ってくると思ったのだろう。しかしソルーシュには既に利逸が手を回して、部下を数人配置していた。 「何が使命だ。お前の、その自分には都合の悪いことを捻じ曲げる癖は一生治らないだろうな」 「もういっそのこと、殺せばいいんじゃねーか? こんな面倒な真似せずに」 「おいおい、物騒な話してんじゃねーか。聞き捨てならねーな」  そこへ現れた、お世辞にも上品とはいえない五十代男性。後ろには私服姿の男が数人、更には制服警官の姿もある。遠くには赤色灯。とてもではないがお役所勤務には見えない彼はれっきとした公務員であり、警察手帳を所持した警察官でもある。 「天下のマル暴さまが、なーんで出てくんだよ」 「オメェらが関わったせいだろうが。念のためウチを動かしておくことで上を黙らせてんだよ」  なるほど、と利逸が笑う。利逸は馴染みの警官が登場したことで尚大を引き渡し、警官側も心得た様子で尚大を確保した。暴れる尚大であったが、多勢に無勢。淡々と時刻を読み上げられて逮捕される尚大を、長谷川が冷めた表情で見ていた。  呆気ないことだ。あれだけ息巻いていたのが嘘のよう。本人も自分に起こっていることがまだ信じられないといった表情で、未だに抵抗し続けている。 「一課はどうしたんだよ。殺人は一課の仕事だろうが」 「もうすぐ来るんじゃねーか? なぁ、お前たち」  一課を出し抜けたことが相当嬉しいようで、利逸の知り合いの警官は上機嫌だ。今頃歯噛みしているはずだと高笑いするマル暴の刑事たちを他所に、利逸が呆れたように肩を竦める。 「近藤さん。腐乱死体は、やはりわざとでしたか?」  長谷川がスキンヘッドの警官に声をかける。近藤と呼ばれた五十代の警官は、チラっと部下を見て顎を引いた。うち一人の私服警官が長谷川に一枚のメモを手渡す。そこには解剖結果が乱雑に書き記されていた。 「お前さんが疑った通り、奴さんたちの遺体は今の季節には不自然なほど、腐敗が進んでいた。それ相応の知識がないとできない芸当だ。それと、例の理都子とかいう女だがな。当時あの小料理屋を改装した業者を突き止めた。そいつの話じゃ、あの店の改装を頼んで来たのは……若い男だったそうだ」  ピク、と長谷川のこめかみが震える。 「……真柴(ましば)、ですか?」 「だとしても、証拠はねぇ。名前、住所、電話番号、全てフェイクだったからな。それにお前さんが気にしていた山岡尚大が利用していた興信所だが……、存在すらしてなかったよ。キレイさっぱり、痕跡もねぇ。これから奴のスマホを解析するが、もしも真柴が裏にいるんであれば辿るのは難しいだろう」  そうですか、と長谷川が小さく頷く。  ずっと、おかしいと思っていた。山岡の連絡先のことだ。山岡は連絡先だけは徹底していた。知っていたのは例の理都子という老婆と、ソルーシュの三人。そして志間に頼み込んで連絡先を教えてもらった長谷川だけだ。長谷川とて情報の入手には困難をきたした。それだけ他のこと使っていなかったからだ。  志間の信頼を勝ち取るのに数年を要し、どうにか来店での告白にまで漕ぎづけた。それをあの尚大が簡単に手に入れられるわけがない。例え興信所を使ったのだとしても、公共料金や何かの登録に使用していないのであれば特定は難しい。 「老婆と真柴が繋がっている可能性もありますね」 「ああ、こっちもその線でも動いてる。あとは、あいつを叩いてどれだけ埃が出てくるか、だな」  煙草に火を点けてふかしながら、近藤が難しい顔をする。 「……しかし、本当なのかねぇ。ドラマや映画じゃねーんだぞ。どうやれば、外の人間を動かして思い通りに犯罪を犯せるんだ? 奴は今、服役中なんだぞ?」  あり得ないといった顔で首を横に振り、近藤は部下を引き連れその場を去って行った。  長谷川も利逸に礼を言って踵を返す。利逸も会社に顔を出さなければならないようで、彼の部下がつけた車に乗り込み早々に立ち去った。長谷川は自分の車に戻りながら、自身のスマートフォンを取り出す。  ツーコールのあと、電話に出た相手に名乗りもせず要件を告げた。 「読み通りだった」 『……そうですか』 「うちの尚も、奴に誘導された可能性が出てきた」 『山岡くんが? ……それは申し訳ありませんでした』 「君が謝ることじゃない。だけど気を付けて。奴はまだ……、美津根くんを諦めていないよ」 ◆ ◆ ◆  体は重いが熱はない。眩暈が酷いのは寝不足のせいだろう。休んではみたものの、ほとんど眠れなかった。  シャワーを浴びて体を清めると、少し頭がスッキリした。散歩がしたくて別荘を出る。出て来る際に時計を確認したが、深夜の一時半だ。こんな遅い時間帯に外へ出たのは初めてで、少しドキドキした。  大きく伸びをして、涼しい夜の風を思いっきり吸い込む。深く吐き出して、月明りの美しい空を見上げた。海岸の方へ行ってみようと歩き出す。のんびり、波の音のする方へ足を向けた。沖縄といっても冬の夜は肌寒い。一枚羽織るものを持ってくるべきだったかと後悔しながら、我慢できないほどではないのでそのまま海を目指す。月明りに照らされた海は、優しく山岡を迎え入れてくれた。 「……綺麗」  なんて綺麗なんだろう。この島に入った当初すぐに志間と曽田が時間的な都合で海ではなくプールで遊んでいたが、翌日から彼らは海三昧。シュノーケリングや釣りを堪能し、美津根もパラソルの下で本を読んだり散歩をしたりと各々楽しんでいた。山岡も一度だけだが海に入ったが日焼けが痛くて、あまり外では遊んでいない。美津根も同じ理由で、夕方からプールに入る程度だった。  その点、志間と曽田は遊びたい放題。日焼けなんてなんのその。朝から晩までダイビングやシュノーケリングで遊び、眠くなったら寝て、釣りをしたくなったら釣り竿を垂らし、旅行を満喫していた。  そんな中で起こった、尚大の殺人事件。バカンス気分が一気に台無しになり、山岡は昨日から体調が思わしくない。もう熱は出せないと体を休めているものの、肝心のメンタルが悲鳴を上げていた。  しばらくぼんやり海を眺めて波を見つめていると、足だけでもつけたくなってきた。サンダルを脱いで海に入る。水温が冷たくて何故だか笑みが零れた。もっと奥に行ってみよう。短パンなので濡れることもない。  そう考えて歩を進めると、背後から切羽詰まった声が聞こえてきた。 「尚ッッ! やめろ! 尚ッッ! 尚道ぃッ!」  え? と驚いて振り返った先。ロングコートを翻して駆けて来る長身の男性。驚く山岡をよそに、彼はスーツ姿であるにも関わらず海に入って来て、山岡を抱きかけると浜辺に引き返した。 「どうしてこんな真似をしたんだッ、馬鹿なことを考えるなッ!」 「は、隼人さん……?」  どうしてここに。仕事はどうしたのだろう。いや、何故ここにいるのか。  目を丸くして驚く山岡に、長谷川は物凄く怒った顔をして馬鹿な真似はするなと怒っている。それは完全に誤解であったが、長谷川は山岡が自害するつもりだったと信じて疑わない。  海水で長谷川のカシミヤのロングコートも、仕立てたばかりのスーツも台無しだ。革靴も海水に浸かり、手に持っていた手荷物が砂に埋もれている。 「俺を愛してるって言ってくれたじゃないかッ、あれは嘘だったのかッ? 何故こんな……っ」 「あの、ち、ちがっ、ちがくて、俺、水遊びを……っ」 「はぁ? 水、あそ……び? え?」 「だから、水遊び……です。全然、眠れなくて……。その、ごめんなさい」  沈黙が落ちる。長谷川は自分の勘違いだったと分かり、深く息を吐いて砂浜に倒れ込んだ。仰向けになって大の字になったまま額を押える。 「……焦った」  本当に心の底から焦っていたのが分かる長谷川の姿に、山岡は胸が疼いた。さっきまでの鬱々としたものが晴れ、ずっと会いたかった恋人に顔を寄せた。  乾いた唇を啄んで、初めて山岡から長谷川へキスをする。舌先を長谷川の唇の隙間から滑り込ませると、長谷川の大きな手が山岡の後頭部に回った。ゆっくり深みを増す口づけ。長谷川の左手が山岡の背を抱いて引き寄せてくる。ほとんど長谷川の上に乗るような恰好で口づけを交わし、山岡は夢中で長谷川の舌に自身のそれを絡めた。長谷川がしてくれるように彼の口蓋をなぞったりもした。  尚、と唇が触れるか触れないかの距離で名を呼ばれる。何を言われるのか、なんとなく分かった。長谷川も、どう返事がくるのか分かっているような表情だった。  昨日から、殺された山岡夫妻と、殺した尚大のことが頭からずっと離れない。一時でいい、何もかも忘れたかった。溺れていたい。長谷川ならそれを叶えてくれる。 「隼人さん、……しよ?」  返事を聞く前に、山岡は濡れた視線を伏せて自らTシャツを脱ぎ捨てた。月明りに照らされる、山岡の白い肌。長谷川もコートを脱ぎ、スーツを放ってネクタイを緩めた。シャツ一枚になった彼の腰を跨ぎ、山岡がキスをねだる。いつになく積極的な山岡に、長谷川も早々にベルトのバックルを外して引き抜いた。山岡の短パンを下着ごと脱がせ、膝立ちにさせる。 「こっちにおいで」  言われるがまま少し移動した山岡は、逆らうことなく長谷川の顔を跨ぐ。 「イイ子だ。そのまま、広げて見せて?」  どこを、とは言わない。山岡は真っ赤になりながらも素直に、言われた通り両手でそこを開いた。双丘を掴み、窄まる最奥を長谷川の眼下に晒す。何をされるのか分かっているから、もうそれだけで屹立が震えた。  シャワーを浴びていた良かったと思いつつ、何の抵抗もなく襞を舐める長谷川に背徳感が拭えない。たっぷりと唾液を含ませた舌先が最奥を抜いて中に入って来る。体の内側を舐められる感覚は未だ慣れず、ゾクゾクとしたものが背に走った。 「は、やとさ……、俺、も……した、ぃ」  暗に舐めたいと言えば、長谷川に逆向きになって四つん這いになるように言われる。今ならなんだってできそうな気分だ。目の前にある長谷川の隆起したものを下着から引き出し、ねっとりと舌を這わせる。自分のものとはサイズも違うが色も違う。張りのある亀頭を口に含み、歯を立てないように気を付けながら顔を上下させた。下手なのは分かっていたが、少しでも気持ちよくなって欲しくて頑張った。  喉の奥まで咥え込んできつく吸い上げる。山岡のボキャブラリーは長谷川にやってもらったことがあることなので、見様見真似だ。それでも段々長谷川の屹立が熱と力を増す。それが嬉しくて、山岡も弱い裏筋を吸い上げた。根元を擦りながら何度もキスをする。 「ん、気持ちいい。あぁ……そこ、もっと強く吸って?」  気持ち良くなってくれて嬉しい。もっと強い方が好きなのだと理解して、擦る手も吸い上げる唇も強めにした。すると鈴口から薄っすら先走りが滲み、躊躇なくそれを舐め取る。夢中だった。 「ンンぅ? んぁっ、ぁ……っ」  山岡のやりたいように愛撫させてくれていた長谷川が、指を挿入してくる。唾液で濡れた指はなんなく襞を割り、山岡の前立腺を擦ってきた。ビリビリとした快感が駆け抜け、上手く愛撫できずに腰が揺れる。指の腹で擦られるたびに気持ちが良くて、大きく下肢が上下した。  更に指がもう一本。山岡の屹立を左手で弄りながら、利き手で内壁を擦る長谷川。山岡は長谷川のものを口に含むこともできずに、彼の屹立に顔を寄せて熱い吐息を吹きかける。隼人さん、と甘えたように名を呼べば、それだけで長谷川の屹立が怒張した。  気持ちがいい。だがこれじゃいつもと変わらない。そう思い、溢れる唾液で長谷川のもとを濡らす。根元までたっぷり濡らすと、三本目の指が中に入ってきた。我慢できずに指を締め付けてしまう。背を反らせて腰を揺らす山岡は、何故これを入れてくれないのだろうと根元を啄んだ。 (あ……、そうか。ゴムが、ないんだ)  以前、男同士なのに何故ゴムを使うのか不思議で、長谷川に訊いたことがある。すると長谷川は、男性の精液が腹痛を起こす原因になることを教えてくれた。山岡が辛い目に遭うので駄目だと言う。後で長谷川家にある長谷川のパソコンで調べてみると、やはり同じことが書かれてあった。と同時に、それでも愛し合いたいがためにそのまま中に出すカップルもいると知った。  何より、誰より、山岡のことを大事にしてくれる長谷川が愛おしくて、そっと体を起こした。どうしたのかと不思議そうな長谷川の方を振り返り、首筋を割と強めに吸い上げた。 「尚?」 「ゴム、なくていいから……」 「ダメ。尚のお腹が痛くなったら、すごく悲しい」 「やだ。して」 「尚……、そんな可愛いこと言わないで? ね?」  最近、たまに見せるようになった山岡の年相応の言動。こうなると敬語も消えて、二十歳そこそこの青年らしい素顔が覗く。長谷川はいつも山岡には甘いが、この山岡にはとにかく弱かった。それを既に自覚している。とんでもなく可愛くてたまらない。滅多に見せない拗ねた顔など最高に性癖を刺激してくるからだ。 「……俺とは、したくない?」  悲しそうに涙声で俯く山岡が、利き腕で涙を拭った。長谷川が目を眇める。下腹部がヒクリと疼いた。  山岡が鼻を鳴らす。泣き真似なんて高度な芸当を山岡にできるわけもなく、事実彼は泣いていた。  チリッ、と長谷川の中で何かが焼き焦げる。山岡をコートの上に寝かせ、一気に最奥を貫いた。 「外に出す。分かったね?」  海風に張り付く前髪をかき上げ、それだけを伝えると山岡の口に指を咥えさせて唾液を指に絡ませた。内壁が乾かないように自身の屹立に塗りつけながら、腰を使う。山岡は口の中も感じるようで、指で舌先を挟んで優しく撫でてやると内壁が蠕動した。溢れる唾液を屹立に塗り、性急に追い上げる。 「あ、ぁ、ぁ、っ……す、ごぃ、隼人さんの、すごく熱い……」 「っ、……あまり煽るな、尚」  どれだけセーブしていると思っている。長谷川の素顔も見え隠れ。ジェルもオイルもない状態だ。唾液だけでは滑りが足りず内壁を傷つけるかもしれない。そんなことにならないよう気を付けているというのに、それを嘲笑うように山岡が煽ってくる。 「ん、ぁ……、どうして……ゆっくり、するの?」 「中が傷ついたらマズイだろう?」  だからこれ以上煽らないでくれと頼む長谷川に、山岡は少し考えたような表情のあと何か閃いたのか長谷川の首に腕を絡めて耳元で囁いた。 「じゃあ、……いっぱい出せばいい?」  ブチっ。そんな音を頭の中で聞いたのは、おそらく気のせいなどではないだろう。長谷川は奥歯を噛み締め、フーと深く息を吐き出して山岡の両足を抱え直した。動けないように両手首を掴み、固定する。 「ひ、ぁ、っ、何、え、ああぁ、あぁっ、ンンッ、ンッ、ンッ、あぁぁんっっ」  襞が捲れるほど激しい抽挿を受け、山岡が背をしならせ喘ぐ。一切の容赦などなく、性急に追い立てられてわけの分からないまま一度目の吐精を迎えた。腹に吐き出した白濁を長谷川が指に掬い取り、一旦抜いて山岡の内壁に塗り付ける。そしてすぐにまた襞を塞いだ。  コキ、と首を鳴らして長谷川が呼吸の荒い山岡を真上から見下ろす。 「お仕置きだ。尚」  泣いても、もう許さない。
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