長谷川×山岡編

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「ン……、ぅ」  薄く開いた潤んだ瞳。吸い込まれるように唇を寄せる。  あんなにつれなかった子も、今は腕の中。居場所を見失った時は肝が冷えたが、結果オーライだ。この後は、彼に愛想を尽かされないよう気を付けながら愛し抜くだけ。一生、手放す気はない。  何よりあの女の処分が存外上手くいった。協力してくれた叔父には感謝してもし足りない。手を汚さず、自滅させることに関しては叔父の右に出る者はいないだろう。言葉巧みに相手を操り、こちらの思惑に気付いた頃には既に遅い。取り返しのつかない状況に追い込まれて、身動きが取れずに終わるのだ。 「尚、あと一回だけ付き合って?」 「……いっか、ぃ?」 「うん、一回。それで終わり」  少し考えるような素振りの後、終わるのであればと頷いた。 「じゃあ、掴まって。離しちゃ駄目だよ」  改めて自分にしがみ付かせて、長谷川は山岡の体をもう一度コートの上に寝かせる。砂の上についた両手に山岡の両足をかけ、角度を調整しながらゆっくり抽挿し始めた。 「ぁンンぅっ」  ここ。ここだ。この角度。できるかは分からないけれど、できれば重畳。今日できなくても次の楽しみにすればいい。  何度かの優しい抽挿。気持ち良さそうに目を閉じて感じている山岡の顔を見つめながら、そろそろいいかと目を眇める。  両足を抱え直し、激しく抽挿し始めた。いきなりの鋭さに、山岡が泣きそうな顔で目を開ける。快感が強いのか体が無意識に逃げようと、しなる。が、長谷川がそれを許さない。 「や、やだっ、強い……っ、強い……っ」  全身真っ赤になって快感の強さを恐れる山岡。その様が実に美しく、妖艶な姿にゾクゾクしてしまう。可愛い。愛おしい。爆発しそうな感情を屹立に乗せて最奥を穿つ。 「嗚呼ぁぁ……っ、や、ぁ、ぁ、っ、ンン、ぁ、だめ……だ、め」 「駄目じゃないだろう? ほら、ここだ」 「ひぁ、ぁ、っんんんぅ、ぅ、ぁ、や……ぅ、ぅ、ぁ、ア……っ」  感度と快感の高まりに山岡の体に力がこもり、内壁がきつく締まった。それを強引にこじ開けて、内壁を擦りながら突き上げる。  山岡の屹立に目をやった。赤くなって震えているものの、それだけだ。ほとんど出すものは残っていない。低く喉を鳴らし、唇を歪める。 「ま、って……な、んか、……待って、何これ、や、やだ……」  何かの変調を感じて山岡が焦ったように背を起こした。けれど長谷川は抽挿を止めない。むしろ一層強く、激しく、腰を打ち付けた。山岡が息を呑む。背を丸めて長谷川の手に自身の手を寄せ、息を詰めた。  強烈な愉悦が山岡を襲っているのが目に見えて分かる。それを狙っていたのだから長谷川からすればしてやったりだ。 「止めて、とめ、て……っ、ぁ、イク、……も、これ、……イク、っ」 「いいよ。あと一回。約束だからね」  イケるといいね。とは、口に出さない。目を細めて揺さぶりながら、先手を打って山岡の両手首を掴んだ。  驚いたように長谷川を見る山岡の愛らしいこと。腹黒い笑みを隠せずにいると、山岡がなんとなくことの状況を察して長谷川を詰ってくる。 「手、やだ、はなして……っ。ひどい、隼人さんっ」 「うん、ごめんね?」  自分で擦ることができなくて、山岡の瞳に涙が溢れてきた。気持ちいいが思うように達せなくて、体も疲弊してきている。それでも長谷川は律動をやめないし動きを緩めてもあげない。山岡の体温は熱く、熱があるのか錯覚しそうなほどだ。元々体温の高い子であったけれど、それだけ感度が増しているのだろう。 「尚、奥……すごいね。ずっとビクビクしてる」 「ちが、やだ……っ、ン、ぅ、っ、ンンっ」 「ほら、また締まった……。気持ちいいよ」 「は、ぅ……っ、ぁ、そこ、ぁ……ぁ、そこっ」  一層強く最奥が窄まり、内壁の圧に負けそうだ。頑なだった窄まりを開かせてまだ日は浅い。そこにある快感が花開いたのも同様だ。山岡の体は未成熟で、とてもではないが成人した男性のそれとは思えない。大切な時期にまともな食事ができなかったことが大きく影響している。  やっと好きなだけ食事ができるようになり、山岡の体はふっくらとしてきた。肌も一段と柔らかく、しっとり長谷川の手に吸い付いてくる。艶のある髪も長谷川が山岡の髪質に合わせて購入したトリートメント。一緒に入る時にはそれを欠かさない。 「も、そこ……やだ、突かないで、そこ……っ、やだ、っ、なんか、や」 「その感じ、そのまま受け入れてごらん」 「嫌っ、これいやっ、っ……ンンーぅ」  嫌だと言っているのに許してもらえなくて、山岡が涙目で睨んでくる。そんな顔をしても可愛いだけだと何故分からないのだろうと微苦笑しながら、しかし強引に逃げようとする山岡の最奥に屹立をねじ込んだ。そのまま容赦なく突き上げ、激しく肌を打ち合う音が穏やかな波の音に交じる。 「あああぁぁっ、や、や、っ、なんか……、やばい、ホントに、やばいっ」  そう。それでいい。まだ足りない。もっとだ。長谷川の動きが更に鋭く、重く、深くなり、山岡が言葉を発せられないほどに息を詰めて下腹部を引き締めた。せり上がるものに流されたくないのか抗ってはいるが、強引に寄こされる快感には負けてしまう。 「ぁ……、ぁ、っ、隼人さ、何、これ、やだ、やだ……っ、なんか、ク、る……っ」  声が抑えられないのか、甲高い声で嫌だとかぶりを振る。長谷川は嫣然と頷いた。可愛い。可愛い。どうしよう。本当に可愛い。自分の下で一生懸命に喘いでいる山岡。これまで数えきれないほど抱いてきたが、ここまで興奮するのはこの子だけだ。 「やだぁ! 嫌い……っ、もう隼人さんキライ!」  泣いてしまった。その顔も愛らしい。だが嫌いとは少々頂けない。素直に胸が痛かった。一回り近く年の離れた子に嫌いだと言われただけで辛いのだから、恋とは恐ろしいものだ。  最奥に亀頭の先を押し付けてグリグリとそこを刺激しながら山岡の小さな体をかき抱く。間近で山岡の顔を見つめ、腰を穿つのではなく波打たせながら感じている可愛い顔を、舐めた。  かき抱いた体が甘い悲鳴を上げる。それが徐々に呻くような喘ぎ声になり、息を詰めるようになった。もう少し。あと少し。 「い、く……っ、イク、だめ、隼人さんっ、ぁ……ぁ、ぁ、なんかくる、きちゃ……、何これぇっ」 「それでいい。流れされろ、尚」  耳朶に顔を寄せて舌先をねじ込み、震える体を揺さぶった。瞬間、山岡の両足がガクガクと痙攣し、息を詰めたまま目を開いて絶頂を迎える。呻くような声が最高に官能的で、長谷川は自身の絶頂に逆らわなかった。   「っ、は! はぁ……っ、はぁ、っ、ぁ、ぁ、ぁ……止まんない、っ」 「……っ」  詰めていた息を吐いて、吸い、だが絶頂したはずなのにそれが止まらず長谷川にしがみ付いてくる。それを優しく宥めて、長谷川は山岡の髪を撫でていた。自身も三度目の吐精を果たし、深く息を吐く。  互いに呼吸が中々整わず、汗が額から滴った。山岡も汗で前髪が額に張り付いている。 「上手だったよ、頑張ったね。初めて奥でイケた」 「……?」  ようやく息が整ってきた頃。意味がよく分からなかったらしい山岡の、汗ばむ髪をかき上げてあげながら彼の利き手を屹立に持っていった。乾いた腹の上。何も出ていない。状況を察して、可愛い顔が真っ赤になる。 「だけど、尚。嫌いはひどいな」 「ぁ……、ごめんなさい」 「僕のこと、嫌いになった?」 「……なってません。愛してます」 「僕も愛してる。大好きだよ」  長谷川が口づけると、山岡は長谷川を抱き締め返して口づけに応えた。山岡の唇を啄みながら、ゆっくりと長谷川が屹立を抜く。窄まる襞が淫猥にヒクつき、そのうちドロリとした白濁が溢れてきた。見ているだけで下肢に熱がたまる。流石にこれ以上は本気で嫌われ兼ねないが、淫靡な光景だ。いつか映像に残すとしよう。  今はそんなことより、傷がないか部屋に戻ったあとで確認しなければならない。白濁に血は滲んでいないものの、こればかりは分からない。  疲れたのか山岡は眠そうだ。長谷川が地平線を眺めている隙に、あっという間に眠ってしまった。大の字で。いびきまでかきながら。 「ははっ、可愛いなぁ」  さて。眠り姫はそのまま寝かせておくことにして、まずは自分の身支度を長谷川は整える。本当は尚大のことを伝えておきたかったが、目が覚めてからでもいいだろう。眠れなかったのだろうから、起こすのは可哀想だ。きっと食欲もさほどなかったはず。起きたら好きなものを何か作ってあげたい。  山岡を甘やかすことには余念のない長谷川。テキパキと身支度を整え、コートで山岡を包んで部屋に戻った。砂だらけだが問題ない。部屋ならいくらでもある。    先にシャワーを浴びて、着替えを済ませた。熟睡している山岡の体を丁寧に拭き上げ、可能な限り自ら出した体液をかき出す。それを何度か繰り返して綺麗にしたあと、山岡を抱えて別の部屋に移った。  真新しいシーツの敷かれたベッドに山岡を寝かせ、自らも隣に横になる。既に夜明けであったが、滝川あたりは気づいているだろう。何せ彼には到着時間を伝えてある。浜辺での行為も見られたかもしれない。  長谷川は山岡を腕に抱いて、ほとんど一睡もしなかった夜に目を閉じる。疲れてはいたが、なんだかスッキリした。山岡に迫ってもらえた幸せと、彼が奥でイケるようになった喜び。尚大のことも一応だが、解決した。  残る問題は、山岡のことを騙したという理都子と名乗った女。本名かどうかも分からない。おそらく偽名だろうと考えている。更には店舗の改装を命じた若い男。この二人が繋がっているのか否かも重要だ。  山岡には、いつ目を付けたのだろう。彼だから騙したのか。それともただの偶然か。  まだ調査する必要がある。裏であの男が繋がっている可能性が出た以上、久峨も動くはず。美津根に関わってくる。見逃しはしない。  そういえば曽田も山岡とさほど時間をおかずにソルーシュにやって来たと言っていた。まさかとは思うが、彼にも何かあるのか。  曽田に関しては柚野がガードしているため綿密な調査は行っていない。彼のことは柚野に任せておけばいい。おそらく既に動いているだろう。抜け目のない奴だ。自分は山岡にだけ注力し彼を守ればいい。  胸が苦しくなるほど愛おしい。腕に抱いているだけで幸せになれる。どこにも逃げないように閉じ込めておきたいけれど、それはできない。尚大の二の轍は踏まない。逃げられては意味がない。山岡に愛されるには、それ相応の寛容性が必要だ。体が縛れないのなら、心を縛ればいい。方法ならいくらでもある。 (こんな男に好かれちゃって……、可哀想に)  長谷川も、自分がまさかここまで執着心が強いとは思わなかった。むしろ手に入れたら飽きるかもしれないと、若干の恐怖心があったくらいだ。無用な心配だった。飽きるわけがない。逆に飽きられる恐怖の方が増した。  何せ一回り近い年の差だ。今はまだいいが、将来を見越して逃げられないように策を講じなければ。パートナーシップ制度を活用するのはもちろん、方々にも手を回して退路を断つ必要がある。  そういえば白無垢を着てくれるとも言っていた。写真に残して大々的に披露目の席を設けるとしよう。その前に律子の墓を探しておく必要もある。律子の墓前で誓約する意味は大きい。活用しない手はない。山岡の中で律子は絶対だ。彼の心の拠り所にもなるだろう。  山岡は長谷川との出会いを覚えていない。それにはちゃんと理由があるのだが、無理に思い出す必要はないと思っている。今が幸せだ。長谷川にはそれで十分だった。のことは、追々でいい。   「……ん。隼人さん」 「起きちゃった? まだ早いから、眠っていいよ」  うっすら瞳を開けてこちらを見上げる山岡に、長谷川が優しい顔で微笑む。すると山岡は視線を落とし、長谷川にすり寄ってきた。惚れた相手にそんなことをされてなんとも思わない男はいない。襲いたい衝動を必死に抑え込んで、髪を撫でる。 「……尚大、人を……殺したんですね」  知っていたのか。泰造たちが必死に隠していただろうに。やはり、隠しきれるものではなかったらしい。 「大丈夫。もう捕まったよ」 「えっ?」 「逮捕された。明日にはニュースになってる」 「本当ですか? もうっ?」  本当だと伝えると、安心したのか山岡が深く息は吐いた。安堵の息だ。心のどこかで、次は自分を殺しにくると思っていたのかもしれない。長谷川は山岡を強く抱き締め、だから安心していいと額に口づける。 「あの子はもう、外には出られないだろう」 「そうなんですか?」 「二人も殺した上に、なんの反省もしていないからね。しかも保釈中に逃げ出しての犯行だ」    長谷川がそう言うのならそうなのだろうと、山岡の安堵がまた一つ深くなった。 「だから安心して眠っていいよ。眠いだろう?」  安心したように山岡が表情を和らげる。長谷川の言葉に頷いて、目を閉じた。寝入ってしまうのに、ほとんど時間はかからなかった。そんな山岡を見つめた後、長谷川もまた目を閉じる。眠ってしまおう。実際、体はかなり疲れていた。  山岡の隣で眠る幸せを噛み締めて、長谷川もまた意識を手放す。時間はかからない。二人仲良く穏やかな寝息。一つの事件が幕を閉じ、新しい門出がすぐそこ。二人寄り添う未来は、まだ始まったばかりである。  
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