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再会
「綺麗なお庭ですね」
庭に出ると、丁寧に手入れされた花々を見て、亜蘭が初めて口を開いた。
「懐かしいな。日本でも咲くんですね」
亜蘭はある花を見つけて、目を輝かせた。
鸚鵡のくちばしのようなオレンジ色の花弁が鈴なりになった花だった。その鮮やかな花弁に手を触れ亜蘭は微笑む。
「きっと南国の花ですね。懐かしいって?」
五月が尋ねる。
「これはヘリコニアと言う植物です。このオレンジの部分は花ではなく、花を守るための苞という葉なんです。鮮やかでしょう」
さらに亜蘭は続ける。
「僕は東南アジアの出身です。幼い頃両親が亡くなり、狭間の父の養子になり日本国籍を取得しました。僕の生まれた村にはこの植物がたくさんあってそれは綺麗でした」
五月は亜蘭に親近感を抱いた。両親がいない境遇が似ている気がした。
「ポケットに何か持っていますね」
唐突に亜蘭が言う。
「ええ。これ?」
五月は木彫りの人形を取り出す。
「いつからかわからないのですが、私のお守りになったんです。最初は兎に見えていたのに、いつの間にかこんな人形に。不思議でしょ?」
五月の説明は少し不明瞭だったが、亜蘭はにっこり笑い何かを唱える。
その途端、幼い頃の記憶が五月に戻って来た。
「あなたね! あなたがこの人形をくれたんだったわ」
五月はなぜ今まで忘れていたのか、不思議だった。
「お守りはあなたを守ってくれましたか?」
亜蘭の問いに五月は考える。
「ええ……」
横断歩道を渡ろうとして、急にポケットからこの人形が転がり落ち、拾おうとして交通事故を避けることができた──。
夜道で若い男に声をかけられた時は、人形を握りしめて“助けて!”と祈ったら、偶然自転車に乗った警察官がやって来て難を逃れた──。
「守ってくれたと思います」
五月は笑顔で答えた。
「もし何か困ったらその人形に祈ってください。僕が駆け付けます」
どうしてそんなことができるのかと五月が尋ねようとしたところで、「亜蘭、亜蘭」と呼ぶ狭間の声が聞こえた。
「父さん、今行きます」
亜蘭はそう答えて屋敷に戻って行ったので、五月もあとを追った。
応接室に二人が戻ると話は終わったようで、狭間が帰り支度をしていた。
「では壺の対象が決まりましたら、お呼びください」
狭間は最後にそう言うと、息子を連れて帰っていった。
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