疑惑

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疑惑

 塩見の死は病死と発表があった。  五月はあのヒタムダクンの壺と塩見の死に関連があるのではないかと、そんな荒唐無稽なことを考えていた。  狭間は“壺の対象が決まりましたらお呼びください”と言っていた。塩見が五月に、『壺を持ってこれないかな』と言ったあの日、つまり塩見の死の前夜、狭間親子が屋敷に呼ばれた。 (まさかね)  そんな非現実的なことがこの世にあるわけはないし、第一、祖父がそんなことをするはずがない──。  五月は疑惑を打ち消した。  でも──。  亜蘭がくれたお守りの人形は現実のものだ。最初は兎に見え、そして今は不気味な人形に戻ったが、確かに五月を守ってくれている。  それに──。敢えて気付かないふりをしていたが、省蔵が五月に対する愛情深い態度とはまったく別の、冷酷で残忍な態度を他人に取ることを五月は知っていた。  使用人に対して、訪ねて来る政治家や財界人に対して、一度裏切られたとわかったら容赦ないのだ。  その頃、五月は変な夢を見るようになった。  知らない男女と一緒にいる幼い五月。とても幸せな気分なのに、その二人から突然引き離され、二人は崖から落ちていく、そんな夢だ。 「私も行く!」  そう言って手を延ばす五月を止めるのはなぜか亜蘭で、「君は聖なる数字を持って生まれた子だから、生きなきゃだめだ」と言われるのだ。   (この夢は何?)  答えが出ぬまま過ごしていたある日、狭間が一人で省蔵を訪ねてきた。  五月はこっそり応接室の隣の部屋に入った。省蔵は来客があると応接室に彼らを待たせ、待っている間彼らが何を話すのかそこから盗み聞きすることがあった。その部屋は応接室の声が良く聞こえるようになっていたのだ。 「あと1回になりました」  壁の向こうで狭間が言うのが聞こえた。 「ヒタムダクンの壺はかの国の聖なる数、5回しか使えません。最初は私が壺を手に入れるために使いました。2回目はあなたが五月さんの両親に使い、3回目は塩見議員の政敵を消すために使いました。そして4回目は、塩見議員自身を手に掛けた」 「お前には追加で報酬を払っている。文句はあるまい」  むっとする祖父の声が聞こえた。 「もちろんです。ただし、残りはあと1回です。あなたに命じられて村を焼き払ったので、あの壺を作れる者はもうおりません。ですからどうぞ慎重に相手をお選びください」  聞き耳を立てていた五月はその内容に強い衝撃を受けた。  祖父は塩見だけでなく、五月の両親、つまり自分の娘夫婦もヒタムダクンの壺の餌食にしたというのか?
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