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復讐
「そうです。あなたは省蔵の孫娘なんかじゃない。当時、省蔵の過去を取材していた新聞記者の小野寺さんがあなたのお父さんです。過去の悪事をばらされるのを恐れて、省蔵はあなたのお父さんと、一緒にいたお母さんを壺の力で事故で死なせた。そしてその罪滅ぼしなのか、残されたあなたを孫娘として育てたのです」
両親の仇に育てられていたという事実に五月は愕然とした。
「あなたはなんでそんなことに加担したの? 逃げられなかったの?」
五月には亜蘭がそんなことをしたとは信じられなかった。
「僕は狭間に真名を知られてしまい、逆らえないのです」
亜蘭の一族は、一族の長老と両親、そして本人しか知らない真名を持っていた。それを他人に知られてしまうと、抵抗できないのだという。狭間は長老に、亜蘭の真名を教えれば村人は殺さないと嘘を言って聞き出したのだった。
「ヒタムダクンの壺はあと1回使えます。あなたが憎い、復讐したいと思う相手の名前を紙に書いて壺に入れたらいい。僕が手伝いましょう」
亜蘭は真剣な眼差しで言った。
「名前は一人だけです。省蔵でも、狭間でも、もちろん僕でもいい。あなたが一番憎いと思う人の名を書きなさい」
「そんな……」
そんなことができるだろうかと五月は思う。人を呪い殺すなんてことが。
「あたなは? あなたはどうなの?」
五月は尋ねる。
「あなたこそ、一族皆を殺されて、復讐したいとは思わないの?」
すると亜蘭は悲しそうに笑う。
「壺使いは、手伝いをするだけです。自分では人を呪えないのです」
「人形をくれたのは? もしかして……」
「幼いあなたがたった一人になったのは僕のせいです。せめてもの罪滅ぼしに黒魔術で守り人形を作り、あなたが苦しまないよう幼い頃の記憶を隠しました」
亜蘭も苦しいのだ、そう五月は感じた。
「明日は党本部が主催する塩見議員のお別れの会です。おそらく省蔵も出向くでしょう。その留守の間に壺を使うのです」
亜蘭はその段取りを告げると、去っていった。
亜蘭が帰ったあとも、五月は東屋で考え続けた。
まず、あと1回は絶対に省蔵には使わせてはいけない。
ヒタムダクンの壺がたくさんの悲劇を生んだ。これ以上、悲劇を増やしてはいけない。
省蔵は五月の両親を亡き者にしたが、一方で五月には優しい祖父だった。そこに嘘はないはずだ。
ヒタムダクンの壺に田原省蔵と書いた紙を入れる。それが本当に省蔵への復讐になるのだろうか?
祖父への手酷いお仕置きは、それが一番なのだろうか?
── 私はどうしたらいいの? ──
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