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私達はラベンダー畑の隅に置かれたベンチに腰掛ける。鯉口はどう見ても女の子にしか見えない。
「去年まで俺の居た大学の写真部は”男しか居ないのに女の子の写真が撮りたい”ってよく言ってたんだ。気が狂ってるだろ。先輩に押し付けられて毎回俺が女装することになった」
鯉口の話によると段々回を重ねるごとに先輩達の要求はエスカレートし、徐々に鯉口はメイクや着こなし、ポージングを覚えたという。
しかし、鯉口が女の子に近付けば近付くほど周囲の様子は変わり、ついには告白する者まで現れて来たらしい。
「嫌だった。怖い先輩に押し付けられて女の格好をさせられるのも。その写真が大会で一番になるのも。
でも、家永が去年、女装した俺に憧れるって言ってくれて俺は変わろうと思った」
そして、本当に鯉口は変わったのだ。
「北陵大に編入したら、家永は俺のこと覚えてないし、野間みたいな奴と付き合ってるのかってくらい仲良くて、心折れそうになった。もう女装はしないって決めたけど、家永が俺に会いたいって言うならあと一回だけ、しても良いかなって思えた」
私が鯉口を見て変わりたいと思えたように、鯉口もまた私を見て変わりたいと思ったのだ。
「私達、お互いがお互いの人生を変えたんだね」
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