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空っぽな部屋の真ん中あたりで白いお皿を前に小さな毛玉が座っている。
見上げた目が何を欲しているのは承知した私は冷蔵庫からネコ用のミルクを取り出して手のひらで転がす。
ねだるこの子にはまだ冷たいから、カップに注いでレンジでほんの少しだけ加熱した。
そして今、クローゼットを開けてみたら、猫用品が目に入った。
猫になら惜しみなく気遣いを向ける事ができるのはお互い一緒だったなと思い出す。同居してから知った共通点。
彼女の持ち込んできたベタな日常の残滓。
人肌に温めたミルクを皿に入れて行儀よく座る前に置く。
小さな水音が部屋に響き、やがて止まる。
満足そうに首を伸ばし、見上げるように大きく口を開けて、子猫はあくびをした。
つられてあくびをしたら、涙が出てきてなんだか笑いそうになった。
もとよりこの小さな毛玉は私の飼い猫ではなくって。
置いていったのは優しさのつもりなのかもと思い当たるけど。
一方的で無責任な押しつけ。
別れて正解だったよなって思う。
抱き上げて鏡の前に立てば、映っているのは彼女にとっていらないものばかりで笑える。
さて、名前をあげるよ、この子に。
【 了 】
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