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小屋に着いたのは夕暮れも迫る頃、カラス達が山の頂きに飛び帰っていく。
あの中にツバメの夫婦を殺したものがいるのだろうか? 松は、空襲で目に焼き付いたB29をみるように、カラスの姿をにらむ。
バラック小屋のトタン扉の前に着いた。
そこに、ひとりの男の子が倒れている。
上半身裸で腰にぼろを巻いた5〜6歳くらいの子が、身体を丸くしながら横たわっていた。
うす汚れた身体はあばら骨を浮き出し、土気色の顔にぎゅっとつぶったまぶた、半分開いた口からは、ガチガチ鳴る歯の音が聞こえる。
どこかの浮浪児が迷い込んだのであろう。
見慣れた光景であったが、自分の家の前で行き倒れられているのは初めてであった。
「ぼうや、大丈夫かい?」
声をかけたが返答はない。
これから麓まで降りて、人を呼ぶのも片足の自分には難儀だ。
松は苦労して、子どもの身体を部屋へ引きずり運び、そばの囲炉裏に火をくべた。
男の子は自分の肩を抱き「寒い、寒い」とうわ言のように繰り返していたが、囲炉裏の火が燃え盛り、松がボロボロになった布団を掛けてやると、眉間にできたシワも和らぎ、すうすうと寝息を立て始めた。
松は男の子の額を触る。
熱はないようだ。いくら春先でも、半裸でいたので寒かったであろう。
額に触れるとき、前髪で隠れていた男の子の顔がみえた。
松の瞳には、徴兵で連れて行かれた長男、空襲で死んだ子どもたちの幼い頃の顔が浮かんた。
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